「姫…いえ、蝶花姫。僕はそんなこと言いません。確かに貴女は魅力的な女性だ。藤城公爵令嬢であり、世にも珍しい魔法使い。王族の血筋までも受け継ぎ、誰もが知る絶世の美魔女『蝶蘭姫』の娘。どこをとってもいいですね。」

 彼は手を取り、それを自身の頬へ置いた。

 口角が上がり目が細くなるのがわかる。

 悪い顔をしている。

「でも、僕が好きなのはそこじゃない。僕は貴女のあの言葉が好きなんです。『ニンゲンになれ』とそう言ってくれた貴女を愛してやまないんです。ほら、僕、今もこんなにドキドキしてるんですよ。」

 優しく抱き寄せられると小さくドキドキと速い鼓動が聴こえた。

 彼の腕の中は温かく、彼の、立浪草の匂いが私を安心させた。

 なんだか変な気分だ。

 彼になら身を任せてもいいとさえ思うようになってしまった。

 見上げてみたって何も変わらないが、見つめてみた。

「?!、ふふ。顔、触れてもいいですか?」
「…構わないわ。」

 ミアの毒に犯された左は元が分からないほど変形してしまい硬くなっている。

 瞳があるだろう場所には大きく未明蝶の形の疣がある。

「最近、痛みはありますか?」
「時々ね。でもすぐ引くし回数も前比べればかなり減ったわ。」
「……そうですか…僕がその痛みを変わってあげられれば…」

 何気ない言葉に顔が熱くなった。