ただ、次の日町に行くといつもの賑やかさはなく、冷たい遺体と林檎の芯だけが残った。

 林檎の木近くの川には工場から流れた毒物が含まれていた。

 それを吸った林檎は気づかずに毒林檎となっていた。

 俺は悪魔だから、毒が効かなかっただけだった。

「そんな…ことが…」
「はは!王子様よ、まだ話は終わってないぞ?」

 事件発覚の後、軍は犯人を捕まえようと動いた。

 しかし、犯人が森奥に住む悪魔だとは知らず、俺は捕まらなかった。

 ただ俺は違う、いっその事捕まって死んでしまいたかった。

 俺は町の人たちが大好きだった。

 子たちは俺を怖がらず「悪魔さん」と呼び親しんでくれた。

 町の大人たちも、俺がいると祭りでもないのに豪華な食事を用意してくれて酒を飲み交わした。

 でも、そんな人たちを自分の手で殺してしまった。

 恩を仇で返した、どうせ手遅れなのだからと自暴自棄になっていた。

 そんな時、声をかけてきた奴がいた。藤城公爵家の当主だった。

「ここは屋敷になる。」
「出てけって?」

 もうどうでもいいから、と言い放った。

 でも、返ってきた言葉は予想とは違った。

「出てけとは一言も言っとらん。眷属に下れ、我らの領地を、人民を守るのだ。」

 町1つ潰した俺に、人を守れと言う。

 始めは馬鹿馬鹿しいと断った。

 が、この命尽きるまで戦うことがせめてもの償いだと思ったのだ。

 当主は川の毒に気づいて直ちに改善するよう命令を下した。

 川に流れる水は飲めるほど綺麗になった。

「これが俺がこの藤城にいる理由。貴様が知りたいのはこの先だな?」
「は、はい…」
「ここでもいいんだが、もっといい場所がある。」