「くらえ、浩一っ」
声と共に突然海水がかけられる。ビーチパラソルの下で寝転んでいたというのに、僕の身体は完全にずぶぬれである。
目をやると波打ち際で、にやけた顔の響が立っているのが見えた。
無言のまま立ち上がると、海の方へと向かっていって思い切り海水を蹴り上げる。
勢いよく飛んだ海水は、響の頭から濡らしていく。
「ぬおっ、やるな浩一。さすが我が永遠のライバル」
「さすが、じゃねぇよ。なにしやがんだよっ。人の憩いの時間を邪魔するんじゃねぇ」
思わず叫ぶように声を漏らすと、そのまま響へと飛びついていく。
しかし響もそれは予想の範疇だったのか、僕の手を取り押さえていた。
「沈めっ」
響はそのまま僕の身体を倒して、海の中へと落としていく。
このやろう。やりやがったな。ただじゃおかねえ。
沈むと同時にそのまま響の足をとってひっぱる。響も大きな水しぶきをたてて海の中へと倒れ込んだ。
「変わらず仲が良いな。あの二人は」
浜辺の方から矢上の声が聞こえてきていた。
少しだけ目をやると黒のビキニ姿の矢上と、ブルーのセパレーツの水着を着た麗奈の二人が浜辺で話しているのが見えた。
矢上はずっと弓道をしてきたらしい。そのためか引き締まった健康的な色気が、彼女の肢体をより魅惑的に見せる。
「なぜかあの二人は馬が合うみたい。浩一があんなに小学生みたいにぎゃいぎゃい騒ぐ相手って月野くんくらいだもの。私の前ではいつもクールっていうか、無感動だし」
勝手な事を言っているなとは思うものの、今は響とじゃれあっていたから言い返す事もできない。
でも気になるので二人の方へと向かってみる。矢上が砂浜で穴を掘っている楠木をみながら、何かを話しているところだった。
「楠木は潮干狩りごっこか。相変わらずの天然ぶりだな。まったく面白い顔ぶればかり集まったものだ」
「……矢上だって人の事は言えないだろ」
楠木の様子をみていた矢上に向かって、僕はため息と共に答える。矢上は自覚がないようだけれど、彼女も十分に変わり者だ。
「私がか。私は特に特徴もないと思うんだが」
矢上は不思議そうに首をかしげていたが、矢上はこれでけっこう古い物やいわくつきの物をじっと見つめていたりする事があった。そんな時の矢上はまるで何か歴史を感じ取っているかのように、想いを馳せているのだ。
「けっこうよく何か変わった物を見つめていたりするだろ」
「ふむ。見つめている訳じゃあないんだが。まぁ、いろいろと物に込められた想いを感じるんだよ。その点、今日の旅館は面白い。長い歴史がある建物というのは、悲喜こもごもあったのだろうなと思わせるよ」
矢上は旅館についても何かを感じていたらしい。確かにかなり時代を感じさせる建物だけに、きっといろんな事があったのだろうとは思うけれど、僕にはただの古ぼけた壊れそうな旅館にしか思えない。
矢上は歴史も好きなようだから、歴史的なものには弱いのだろう。
僕と矢上の言い合いをきいて、隣で麗奈が呆れた声を漏らす。
「まったく。そういう浩一も十分変わっているんだから」
「……お前も十分変わり者だからな」
ため息をもらして、ゆっくりと答える。
「なによー。浩一はすぐ人の事を悪くいうんだから」
麗奈は顔を背けて、ぶつくさと口の中で文句を告げていた。
その向こう側では楠木が砂浜を掘り続けている。この時間のこの辺ではろくな貝はとれないと思うのだけど、たぶん実際に何か採れるかどうかよりも、穴を掘りたいのだと思う。
「なんかみつけちゃいました」
急に立ち上がって、なんだかよくわからない貝を掘り出していた。
とりあえず楽しそうではあるが、天然というか、子供っぽいというか。いつ見ても不思議な感じの子だとは思う。
楠木の近くにいた大志もその様子をみながら、「これ食べられるのかな」とか疑問を口にしていた。とりあえず大志は食べられるかどうかが問題のようだ。
「どうでしょうか。食べられるとしても、勝手に穫っていいものかわかりませんし」
「そっか~。残念。まぁ、食べるのはどこかで何か買おう~」
言いながら、遠くをじっと見つめていた。残念ながらこのあたりには食べ物のお店などはない。そもそもここはかなりの穴場のようで、僕達以外の客はかなり少ない。たぶん他にいるのは地元の人達だと思う。
人が少ないゆえに、海の家のようなものも見当たらない。正確にはかつては海の家だったのかもしれない建物が残っているが、営業はしていない。浜辺もかなり狭いし、海は綺麗だけど砂浜は雑多で綺麗というわけでもなかった。
しかしそれにしてもこのメンバー本当に変わった人間ばかりだと思う。僕が言うのも何だけれど、男女で海にきておいて、特に色気のある話の一つもない。もちろん気のおけない仲間達だからというのはあるとは思うが、子供の時のままの関係でいいのかどうかも不思議になる。
そういう意味では大志と楠木は最近ずっと二人で行動しているようだから、聞いた事はないけれど、この二人は案外そういう関係なのかもしれない。あまりそういう風にも見えなかったけれど。
僕はと思うと三人いる女子のうち一人は妹の麗奈という事もあってか、そういう気持ちは特に考えられない。あえて考えるとしたら、楠木が大志と付き合っているのだとしたら、相手は矢上という事になるのだろうか。
確かに彼女の事も嫌いじゃない。むしろ好きな相手だとは思う。ただ今までそういう事を考えた事はなかった。
いや。僕はそもそも何を考えているのだろう。何となく流れで考えてしまったけれど、別に僕の目的はそういう事じゃない。あくまでも僕が見据えるのは、未来を変える事だ。
ただそうは言っても何をすれば良いのかはわからなかった。とにかくは桜乃と関係を深めるべきなのだろうか。彼女が何らかの鍵を握っているのは確かだ。
声と共に突然海水がかけられる。ビーチパラソルの下で寝転んでいたというのに、僕の身体は完全にずぶぬれである。
目をやると波打ち際で、にやけた顔の響が立っているのが見えた。
無言のまま立ち上がると、海の方へと向かっていって思い切り海水を蹴り上げる。
勢いよく飛んだ海水は、響の頭から濡らしていく。
「ぬおっ、やるな浩一。さすが我が永遠のライバル」
「さすが、じゃねぇよ。なにしやがんだよっ。人の憩いの時間を邪魔するんじゃねぇ」
思わず叫ぶように声を漏らすと、そのまま響へと飛びついていく。
しかし響もそれは予想の範疇だったのか、僕の手を取り押さえていた。
「沈めっ」
響はそのまま僕の身体を倒して、海の中へと落としていく。
このやろう。やりやがったな。ただじゃおかねえ。
沈むと同時にそのまま響の足をとってひっぱる。響も大きな水しぶきをたてて海の中へと倒れ込んだ。
「変わらず仲が良いな。あの二人は」
浜辺の方から矢上の声が聞こえてきていた。
少しだけ目をやると黒のビキニ姿の矢上と、ブルーのセパレーツの水着を着た麗奈の二人が浜辺で話しているのが見えた。
矢上はずっと弓道をしてきたらしい。そのためか引き締まった健康的な色気が、彼女の肢体をより魅惑的に見せる。
「なぜかあの二人は馬が合うみたい。浩一があんなに小学生みたいにぎゃいぎゃい騒ぐ相手って月野くんくらいだもの。私の前ではいつもクールっていうか、無感動だし」
勝手な事を言っているなとは思うものの、今は響とじゃれあっていたから言い返す事もできない。
でも気になるので二人の方へと向かってみる。矢上が砂浜で穴を掘っている楠木をみながら、何かを話しているところだった。
「楠木は潮干狩りごっこか。相変わらずの天然ぶりだな。まったく面白い顔ぶればかり集まったものだ」
「……矢上だって人の事は言えないだろ」
楠木の様子をみていた矢上に向かって、僕はため息と共に答える。矢上は自覚がないようだけれど、彼女も十分に変わり者だ。
「私がか。私は特に特徴もないと思うんだが」
矢上は不思議そうに首をかしげていたが、矢上はこれでけっこう古い物やいわくつきの物をじっと見つめていたりする事があった。そんな時の矢上はまるで何か歴史を感じ取っているかのように、想いを馳せているのだ。
「けっこうよく何か変わった物を見つめていたりするだろ」
「ふむ。見つめている訳じゃあないんだが。まぁ、いろいろと物に込められた想いを感じるんだよ。その点、今日の旅館は面白い。長い歴史がある建物というのは、悲喜こもごもあったのだろうなと思わせるよ」
矢上は旅館についても何かを感じていたらしい。確かにかなり時代を感じさせる建物だけに、きっといろんな事があったのだろうとは思うけれど、僕にはただの古ぼけた壊れそうな旅館にしか思えない。
矢上は歴史も好きなようだから、歴史的なものには弱いのだろう。
僕と矢上の言い合いをきいて、隣で麗奈が呆れた声を漏らす。
「まったく。そういう浩一も十分変わっているんだから」
「……お前も十分変わり者だからな」
ため息をもらして、ゆっくりと答える。
「なによー。浩一はすぐ人の事を悪くいうんだから」
麗奈は顔を背けて、ぶつくさと口の中で文句を告げていた。
その向こう側では楠木が砂浜を掘り続けている。この時間のこの辺ではろくな貝はとれないと思うのだけど、たぶん実際に何か採れるかどうかよりも、穴を掘りたいのだと思う。
「なんかみつけちゃいました」
急に立ち上がって、なんだかよくわからない貝を掘り出していた。
とりあえず楽しそうではあるが、天然というか、子供っぽいというか。いつ見ても不思議な感じの子だとは思う。
楠木の近くにいた大志もその様子をみながら、「これ食べられるのかな」とか疑問を口にしていた。とりあえず大志は食べられるかどうかが問題のようだ。
「どうでしょうか。食べられるとしても、勝手に穫っていいものかわかりませんし」
「そっか~。残念。まぁ、食べるのはどこかで何か買おう~」
言いながら、遠くをじっと見つめていた。残念ながらこのあたりには食べ物のお店などはない。そもそもここはかなりの穴場のようで、僕達以外の客はかなり少ない。たぶん他にいるのは地元の人達だと思う。
人が少ないゆえに、海の家のようなものも見当たらない。正確にはかつては海の家だったのかもしれない建物が残っているが、営業はしていない。浜辺もかなり狭いし、海は綺麗だけど砂浜は雑多で綺麗というわけでもなかった。
しかしそれにしてもこのメンバー本当に変わった人間ばかりだと思う。僕が言うのも何だけれど、男女で海にきておいて、特に色気のある話の一つもない。もちろん気のおけない仲間達だからというのはあるとは思うが、子供の時のままの関係でいいのかどうかも不思議になる。
そういう意味では大志と楠木は最近ずっと二人で行動しているようだから、聞いた事はないけれど、この二人は案外そういう関係なのかもしれない。あまりそういう風にも見えなかったけれど。
僕はと思うと三人いる女子のうち一人は妹の麗奈という事もあってか、そういう気持ちは特に考えられない。あえて考えるとしたら、楠木が大志と付き合っているのだとしたら、相手は矢上という事になるのだろうか。
確かに彼女の事も嫌いじゃない。むしろ好きな相手だとは思う。ただ今までそういう事を考えた事はなかった。
いや。僕はそもそも何を考えているのだろう。何となく流れで考えてしまったけれど、別に僕の目的はそういう事じゃない。あくまでも僕が見据えるのは、未来を変える事だ。
ただそうは言っても何をすれば良いのかはわからなかった。とにかくは桜乃と関係を深めるべきなのだろうか。彼女が何らかの鍵を握っているのは確かだ。