人の波に逆らい外へと逃げるが、まだ教師達は追いかけて来る。しかも、一人二人ではない。
 職員室に居た教師が陽から逃げ、放送を流したことにより事態を把握した教師が、すぐに行動に移したのだろう。

「ちょ、まじでこれ、捕まっちゃうの?!」

 後ろから追いかけられ、逃げるしかできない三人は、後ろを警戒しながら顔を青くし走り続ける。
 真理の口から不安の声が漏れ、二人も後ろを確認し難しい顔を浮かべた。

「紫炎先生、どうして…………」
「あの、何があったんですか? なぜ、こんなことに?」

 走りながら曄途が問いかけ、一華が簡単に先ほどの出来事と、パソコンに残されていたメール内容を話した。
 すると、曄途が目をかすかに開き考える。

「なるほど、わかりました。こっちは良い情報を手に入れることが出来たんです、それもお話ししたいのですが……」
「良い情報?」
「はい。ですが、今はまず追ってをどうにかしなければ……」

 まだ追いかけてきている教師を振り返り、苦い顔を浮かべる。
 人数は五人くらい。早く巻かなければ逃げ道を封じられ、捕まってしまう。
 せめて、どこかに隠れられる場所があればと思い探すが、住宅街まで走っていた三人は不法侵入をするわけにもいかず、隠れられない。

「手分けする?」
「交流できない可能性があるから、それは避けたいですね……」

 真理の提案を、曄途がやんわりと却下するが、他にいい案がなく舌打ちをこぼした。

「せめて、足止めだけでも出来たら……」

 曄途が呟くと、前方から走ってきている女性の影に気づく。まさか、回り込まれたのかと思い体を硬直させるが、前から来ていたのは先生ではなく、白いエプロンを付けた見覚えのある女性だった。

「っえ、お母さん?!」

 前から走ってきていたのは、一華の母親、葵だった。

「一華! 嫌な予感がして来てみれば……。何があったのか深く聞いている時間は無いみたいね。早く行きなさい、ここは私が少しでも時間を稼ぐわ」
「でもっ!」
「教師は反射的に親というものを無視できない生き物よ。大丈夫、安心して。貴方達は貴方達のやるべき事をしなさい!」

 三人を守るように立ち、向かってくる教師達を見据える。
 頼もしい母親の後ろ姿を目に収め、一華は目尻が赤くなり涙が出そうになる。だが、泣いている時間は無い。
 目を乱暴に擦り、笑顔で走り出した。

「ありがとう、お母さん!!」

 娘の元気な声を聞き、葵は口角を上げ優しく微笑んだ。向かってくる教師を見て、姿勢を正す。

「私も、あそこまで必死になることが出来たら、助けることが出来たのかしら……」

 過去を思い出し後悔するも意味は無い。今は、助けを求めている娘を全力で守ることに集中することを決め、迫ってきていた教師達を呼び止めた。

「すいません、私の娘を追いかけまわして、どうしたんですか?」

 強気な葵の態度に、教師は反射的に足を止めてしまった。


 葵を心配しつつも、三人は走り続ける。どこか話すのにちょうどいい場所はないか見回していると、ちょうど誰もいない公園が目に入った。
 お互い顔を見合せ、公園へと入る。遊具を見回していると、象の形をしている滑り台を見つけた。

 中は空洞になっており、中へ入る穴もある。覗いてみると、狭いが三人は入れそう。
 ここなら仮に葵から抜け出した人がいたとしても、少しは時間を稼ぐことが出来る。

 一人づつ中に入り、三人身を寄せあって話を聞く体勢を作り出した。

「はぁ、はぁ……。蝶赤先輩のお母様が時間を稼いでいる時間に、僕が手に入れた情報をお話します。様々な人に話を聞いていると、一人だけ。個性の花について……というか、薔薇について興味本位で調べ尽くした人がいたんです。そちらの方に聞いてみたところ、赤い薔薇だけは他の個性の花とは違った力が備わっているみたいです」
「赤い薔薇だけ?」

 切れた息を何とか整えつつ、時間をあまり使わないように急ぎ気味で二人に伝えた。

「はい、赤い薔薇は他の薔薇を引き寄せる力があるみたいです。僕と黒華先輩が同じ学校に居たのは、その力が影響しているのかもしれません。それで、なぜそんな力が備わったのかは、個性の花がなぜ人間に備わったのかから始まるみたいです」

 息が整った曄途は、一呼吸置き聞いた話を少しでも端的に伝えるため、頭の中でまとめた。

「…………なぜ、個性の花が僕達人間に出すことが出来るのか。これは、女神様が好きな方を自身のものにするために力を分けた結果らしいです」