三人はお昼休み、屋上で待ち合わせをし、打ち合わせ、行動に移した。

 曄途は家で様々な個性の花が書かれている本をあさり調べ、それでも足りず。少しでも知識を蓄えようと図書室に行き調べたり、様々な人の話を聞いたりしている。
 生徒達は今まで話したことがない曄途から声をかけられ驚きつつも、()()()()()のおかげでスムーズに話を進めることができていた。

 一華と真理は曄途途は別行動、職員室に向かっていた。
 放課後まで待ち、時間はおわりのSHR。二人は体調が悪いと教室を抜け出し、職員室の扉の前に立っている。

 周りには誰もいない、足音もない。それを確認し、職員室の扉をゆっくりと開いた。
 顔だけを覗かせ中に人がいないか見回すと、二人は「「ゲッ」」と不満の声を漏らした。

「…………最悪」
「こういう時に限っているんだもんねぇ。紫炎先生」

 二人の目線の先には、パソコンに向かって仕事をしている3-Bの担任、紫炎陽の姿。
 二人が用事あるのは、彼の隣の席にある、朝花のパソコン。

 パソコンは情報の倉庫、絶対に何かある。時間がない二人は、今彼に気づかれないようにパソコンを見ることは出来ないか考えた。

「…………私が反対側から先生を呼べば、来てくれるかな」
「来てくれるとは思うけど、話を繋げること出来る? 視線とかも気づかれないようにしないといけないよ?」
「一華、お願いしてもいい?」
「自信ないけど、やってみるよ」

 ため息を吐きながら一華は立ち上がり、もう一つのドアをへと向かう。お互い頷き合い、タイミングを計り一華は息を吐き、ドアを開けた。

「先生」
「ん? 今はSHRのはずですよ。なぜここにいるんですか?」
「体調が悪くて、少し休んでいたんですが……。どうしても気になることがあり、少しいいですか?」

 ドアから動こうといない一華に、陽は疑問を持ちつつも立ち上がりドアへと向かって行った。
 場所を移動したことを確認すると、真理が机などを使い彼の視界に入らないように朝花の机へと向かって行く。

 パソコンを立ち上げる前にドアの方を確認すると、まだ話を繋いでくれている。だが、職員室からは出て行ってはくれない。
 すぐにパソコンのキーボードに手を添えると、何故か急に画面がぱっと明るくなった。

「え、スリープモードになって……た? 都合よすぎない?」

 驚きつつも 真理はラッキーと考えマウスを操作、ファイルを確認し始めた。すると、一つだけ鍵付きのファイルを見つける。
 クリックするが当然、暗証番号を入力する画面に出てきてしまった。

「ちっ」

 舌打ちを零しつつ他に手がかりがないか探す。
 ちらっとドア付近を見てみると、まだ一華が話を繋いでくれている。だが、焦っているような表情。時間がないと真理は焦り汗が落ちる。
 息を吐き画面に集中していると、一華の真理を呼ぶ声が聞こえ咄嗟に顔を上げた。

「あっ……」

 隣には、腕を組み真理を見下ろしている陽の姿と、その後ろでは悔し気に顔を歪めている一華。
 流石に時間をかけすぎてしまったらしく、陽が気づいてしまった。

「あっ…………死んだ」

 もう終わったと真っ青にする真理に、陽は冷静に問いかけた。

「何をしているのですか?」

 地を這うような低い声に、真理は「ひっ」と小さな悲鳴を上げる。涙目になり、一華に助けを求めた。

「どうしたんですか? 質問に答えてください。今やっていた事が悪い事なのはお判りでしょう? なぜ、罪を犯してまでこのような行動を起こしたのか、ご説明をお願いします」
「あの、真理は私がお願いして協力をしてくださったんです。なので、私が答えます」
「では、蝶赤さんに聞きましょう。なぜ、このような事をしようと思ったのですか?」

 一華が冷静を務め、真理の助けに入る。
 陽は目線だけを後ろにいる一華に向け、冷静に問いかけた。

「黒華先輩が風邪で休んでいると聞きました。ですが、それでは納得が出来ないのです。それに、先生達が何かを隠しているようにも思えます。なので、独自で調べようと思いました」
「なるほど。それで、一番黒華君と関わりの深い侭先生を狙ったという事ですね。担任である私ではなく」

 その言葉に、一華と真理は陽越しに顔を見合せポカンと口を開いた。

「「あっ」」
「まさか、私が黒華君の担任だとお忘れだったのですか?」
「…………あまり話したことがなかったので…………」

 目線を逸らされ言われた陽は、自身には興味が無いと言われたと思いショックを受けた。
 顔を引きつらせ、頬をぽりぽりと掻く。ゴホンと咳ばらいをし気を取り直し、真理が立ち上げたパソコンを覗き見た。

「あれ、パソコン立ち上げる事出来たんですね」
「え、は、はい。スリープモードになっていましたので……」

 真理の返答に陽は目をかすかに開き、顎に手を当て考える。
 いきなり静かになった陽に、真理は一華の隣に移動し顔を見合せた。

「これ、セーフ?」
「わからない。紫炎先生が何を考えているかによると思うよ」

 二人がきょとんとしていると、陽は鍵付きのファイルをクリック。パスワード画面を開き、解除。中の資料を確認した。

「え、先生?」

 一華が声をかけるが、パソコンの操作を続ける陽。何を考えているのかわからない二人だが、画面を覗き込もうとそっと近づき陽の隣に立ち覗きこんだ。

 画面にはメールのやり取りが保存されている。
 びっしりと敷き詰められている文字に、真理は一瞬で脳が拒絶。無理無理と、一華に全てを託した。

 眉間に皺を寄せ画面を見る一華は、陽と同じく考え込む。

「紫炎先生、私達に見せてもいいのですか?」
「……本来はだめですよ。内容を見ればわかりますよね」

 メール内容は、『黒い薔薇と赤い薔薇が一緒に行動している。黒い薔薇が赤い薔薇に告白をした。このままでは黒い薔薇と赤い薔薇が交わってしまう。
 女神の封印が解かれる、二人を引き離さねば』

 このようなやり取りが書かれている。それだけならまだいい。
 最後の文面には、教師が考えてはいけないことが書かれており、一華は目を大きく見開いた。

「黒い薔薇を、監禁?」

 優輝を監禁させるという言葉が書かれていた。それも、送信したのは朝花。
 唖然としていると、SHRが終わるチャイムが鳴る。このまま職員室にいると他の教師達が戻ってきてしまう。
 真理はドアを気にしながら一華と陽を交互に見た。

 沈黙が続く中、一華の身体が微かに震え始める。
 怒りで真っ赤になった顔を陽に向け、甲高い声で喚き散らした。

「これはどういうことですか紫炎先生!! なんで黒華先輩を監禁しなければならないのですか!!!」

 一華の叫びに、陽は答えない。その事にまた血が上り、近くにある机を”バンッ”と強く叩いた。

「先生!! 答えてください!! なんで黒華先輩を監禁しようと書かれているんですか! なんで誰も止めないのですか!!」

 メールのやり取りを見続けると、誰も朝花の提案を止めてはいなかった。
 その事にも激昂、怒りを喚き散らす。だが、陽は何も答えない。

 我慢の限界となった一華は怒りのまま陽へと飛び掛かろうとすると、職員室に彼女の叫び声を聞いた教師が戻ってきてしまった。

「さっきの叫び声はなんだ!!」

 一人の教師が中に入ると、一華の姿を見て目を開き固まる。

「何をしているんだ君達は。今はSHRが終わったばかり、今ここに居るにはおかしくないですか?」

 近付いて来る教師を見て真理は今にも泣き出しそうな顔になる。
 一華はまだ陽を睨んでおり、彼は俯き口を開かない。

「まったく、紫炎先生困りますよ。貴方が注意してくださらなければっ――」

 教師は画面に映っているメール画面を見て固まる。顔が真っ青になり、ゆっくりと俯いている陽を見た。

「あ、貴方、もしかして…………」

 真理がはっとなり、このままではこの教師に今度は一華が捕まるかもしれないと瞬時に察した。
 それは正しかったらしく、教師は直ぐに一華の腕を掴もうと手を伸ばす。

「一華!!!」

 真理の方が動き出しは早く、掴まれる前に彼女を前に押した。
 ドンッと、床に倒れ込んでしまった一華は痛みで我に返る。焦った様に睨んで来る教師を見て、目を開いた。

「あっ」
「走って!!!」

 恐怖で動けなくなってしまった一華を真理が無理やり立たせ、逃げようとする。だが、教師は全体に逃がさないと手を伸ばした。

 あともう少しで捕まる。そう思った時だった。

「っ!?」

 陽が教師の腕を掴み、動きを封じた。

「紫炎先生?」
「走ってください! 黒華君は侭先生が預かっていますよ!!」

 陽の言葉に掴まれている教師は驚愕。もがき抜け出そうとした。

 走り出した二人は、後ろで取っ組み合いになっている陽を見る。
 大丈夫なのか不安になるが、真理に手を引かれ、何も言えないまま廊下へと出た。

 廊下を走っていると、生徒に紛れ前の方に曄途の姿を確認できた。

「っ、蝶赤先輩、糸桐先輩。どうしたんですか?」
「白野君!! こっちに来ないで! ばれちゃったの!!」

 曄途が合流しようと走っていると、校内放送を知らせる音。

『学校中の生徒、教師に知らせる! 蝶赤一華と糸桐真理を大至急捕まえろ!』

 その声は先程、陽と取っ組み合いになっていた教師の声。
 周りにいる生徒達はいきなりの校内放送で困惑。一華達を見て固まった。

「あっ、いや…………」

 周りからの視線に戸惑っていると、後ろから教師達が走ってきている姿が曄途の目に映る。

「状況はまだわかりませんが、今は逃げましょう!!」

 曄途の声で二人は人の波に逆らい走り出し、外へと向かった。



 学校内で教師の放送を聞いていた朝花は驚き、手に持っていた出席簿を落とす。近くにいた生徒は首を傾げながら放送を聞いていた。

「蝶赤さんと糸桐さん、なにかあったの?」

 誰に問いかけるでもなく呟かれた生徒の言葉に、朝花は答えず、落ちた出席簿を拾わず廊下を走り出した。