顔を青くし、わなわなと身体を震わせる三人。
そんな三人を見回し、葵は話したのはまずかったかなと苦笑。空気を変えようと、パンっと手を叩いた。
「はい、私の話はこれで終わり。どんなに悲惨なことが過去に起きていても、それは過去よ。また、同じことを繰り返さなければ問題ないわ」
自身の体を両腕包み込み、ガタガタと震える体を押さえつけている一華を見て違和感を覚えた葵。眉をひそめ、彼女の両肩に手を置き、軽くゆさぶった。
「一華、どうしたの? なんで、そんなに震えているの?」
確かに怖かったかもしれない、そう思った葵だが、ここまで一華が怖がるのはおかしい。そう思い問いかけるが、一華は恐怖で喉が絞まり、上手く言葉を出すことが出来ない。それでも答えないとと、何とか言葉を絞り出した。
「く、黒華、先輩は……」
乾いてしまった喉を潤すため、一度唾を飲み込み、か細い声で最低限の言葉を発した。
「先輩は、よく、『大丈夫』と、言って、いました……」
か細く、耳を傾けないと聞こえないほど小さく震えている声だったが、葵の耳にはしっかり届き、目を開き顔を青くした。
葵の親友の口癖は『大丈夫』。
辛くても、悲しくても。親友である葵を悲しませたくない、辛い思いをして欲しくないと思い、『大丈夫』という言葉を何度も使っていた。
何度も、何度も使っていた。大丈夫じゃなくても、今すぐに逃げ出したいと思っていても。
彼女はいつも同じ言葉を言っていた。
それは、今の優輝と同じ。
優輝も一華達から大丈夫かと聞かれた時、必ず『大丈夫』と言っていた。
大丈夫ではなさそうに見えても、彼なら『大丈夫』と答えてしまう。
それがわかっている一華は、今以上に聞いても答えてくれないだろうと諦め、納得した振りを続けた。
葵も、今の一華と同じ選択をして、その結果、大事な友人を失う結果となってしまった。
一華の現状と葵の話があまりに似ており、結末まで一緒になってしまうんじゃないかと。想像すらしたくないのに、頭には最悪な光景が映り出す。
「い、いやだ……」
頭に浮かぶ光景を消そうと頭を抱え、目からは大粒な涙がぼろぼろと落ちる。
体をガタガタと震わせ、膝から崩れ落ちた。
「いやだ」と同じ言葉を繰り返し体を震わせる一華を見て、葵は唖然。だが、すぐに下唇を噛み、拳を握る。
その場に崩れ落ちた一華と同じ視線になるように、片膝をつき彼女の肩を両手で掴んだ。
「しっかりしなさい一華!!!」
「っ!?」
葵の叫び声により、一華は震える体のまま彼女を見あげた。
「いい? 黒華先輩がどのような子か私は分からない。けれど、まだ諦めるには早いと思うの。私の時は何も行動を起こすことなく終わってしまったけれど、貴方達にはまだ時間があるわ。行動を起こす時間が。ここで震えていても、誰も助からない。ここで怯えていても、貴方の大事な人は助からないの。助けたいのなら、行動を起こしなさい、考えなさい、調べなさい。このまま脅えているだけでは、一生後悔する結果となるわよ」
葵の薄紅色の瞳が恐怖している一華の心を射抜き、発破をかけた。
今まで葵にここまで強く物事を言われたことがない一華にとって、今回のは初めてのこと。今までの葵とは思えない態度、言動に目を丸くする。だが、直ぐに顔を俯かせ黒い瞳を揺らした。
このまま行動を起こさなければ一生後悔する結果となる。
葵の言葉に、胸が鷲掴みされ苦しい。それと同時に、このままでは駄目だと自分を奮い立たせることが出来た。
横に垂らしている手を強く握り、下げた顔をゆっくりと上げ、一華を見ている母親と目を合わせる。
一華の黒く、光のある瞳は、真っ直ぐ葵の薄紅色の瞳を見つめ、視線が交差した。
先程までの恐怖心は感じられない。凛々しく迷いのない瞳を目をしており、葵は安心したかのように息を吐き、肩を掴んでいた手をそっと離した。
「貴方は私の自慢の娘、大丈夫。貴方なら、貴方達なら、必ず大事な人を助けることが出来るわよ」
「うん、ありがとう、お母さん!!」
「ええ。私にも出来ることがあるのなら言ってちょうだい。何でもするわ」
一華の頭を撫でながら言うと、「それじゃ」と一華が一つ、母親に提案した。
「私、もっと黒い薔薇について知りたい。個性の花について調べられる所って、ある?」
「そうねぇ。図書館とかにはあるけれど、一般的な物しかないわ。黒い薔薇が書かれているかどうか……」
頬に手を当て考えていると、先程まで話を聞いていた曄途が手を挙げた。
「個性の花は、僕も調べたことがあるので、まだ家に資料が残っているはずです。なので、個性の花については僕が調べます。蝶赤先輩と糸桐先輩は黒華先輩について聞いていただけると嬉しいです」
「でも、調べると言ってもどうすればいいの? 私達は先輩について詳しく知らない。家すらも、知らないの。頼りの綱である侭先生は絶対に口を割らないだろうし……」
曄途の言葉に真理が自信なさげに言う。
うーんと一緒に考えていると、何かを思い出したかのように曄途は「あ」と声を上げた。
「侭先生なんですが、様子がおかしかったですよね。何かを隠しているような感じでした」
「それは他の教師にも言える事じゃない? だって、黒華先輩は風邪じゃないもん。絶対」
「では、先生達は何を隠してるのでしょうか」
一華は曄途の言葉に首を傾げる。真理も同じく首を傾げ、眉間に皺を寄せた。
そんな時、葵が過去に調べた記憶を頼りに口を開く。
「確か、赤い薔薇と黒い薔薇は交じり合ってはいけない。そのような話を耳にしたことがあるわ」
「それって、なんで?」
葵の言葉に一華が疑問の声を上げる。
質問に答えようとするが、肝心なところはわかっておらず首を横に振る。
「ごめんさない、そこまではわからないわ。確か、が㎜ばって図書館とかで調べようとしたのだけれど、これだけは出てこなかったはずなのよ」
葵の言葉に三人は肩を落とす。
でも、すぐに顔を上げやる事を話し合った。
「先生は多分、黒い薔薇と赤い薔薇が交じり合ってはいけないことを知っているはず。もしかしたら、私と黒華先輩を引き離そうと何かをしているのかも」
「それはあり得るよね。聞き分けのよさそうな黒華先輩を選んだのも何かありそう。どこかで監禁されているとか?」
「もし、監禁な度でしたら侭先生が一番怪しいかもしれませんね。一番距離が近いため、怪しまれることなく事を進められるでしょう」
三人はお互いに目を合わせ、力強く頷く。
「明日からのやるべきこと、整理出来ましたね」
「そうだね。私と真理は明日職員室に向かうわ。白野君は黒薔薇に付いてと、お母さんが言っていた言い伝えについて調べてほしい」
「わかりました、任せてください」
これからの動きを話し合った三人は、明日から実行すると伝え、一華は雨が上がった外へと二人を見送った。
そんな三人を見回し、葵は話したのはまずかったかなと苦笑。空気を変えようと、パンっと手を叩いた。
「はい、私の話はこれで終わり。どんなに悲惨なことが過去に起きていても、それは過去よ。また、同じことを繰り返さなければ問題ないわ」
自身の体を両腕包み込み、ガタガタと震える体を押さえつけている一華を見て違和感を覚えた葵。眉をひそめ、彼女の両肩に手を置き、軽くゆさぶった。
「一華、どうしたの? なんで、そんなに震えているの?」
確かに怖かったかもしれない、そう思った葵だが、ここまで一華が怖がるのはおかしい。そう思い問いかけるが、一華は恐怖で喉が絞まり、上手く言葉を出すことが出来ない。それでも答えないとと、何とか言葉を絞り出した。
「く、黒華、先輩は……」
乾いてしまった喉を潤すため、一度唾を飲み込み、か細い声で最低限の言葉を発した。
「先輩は、よく、『大丈夫』と、言って、いました……」
か細く、耳を傾けないと聞こえないほど小さく震えている声だったが、葵の耳にはしっかり届き、目を開き顔を青くした。
葵の親友の口癖は『大丈夫』。
辛くても、悲しくても。親友である葵を悲しませたくない、辛い思いをして欲しくないと思い、『大丈夫』という言葉を何度も使っていた。
何度も、何度も使っていた。大丈夫じゃなくても、今すぐに逃げ出したいと思っていても。
彼女はいつも同じ言葉を言っていた。
それは、今の優輝と同じ。
優輝も一華達から大丈夫かと聞かれた時、必ず『大丈夫』と言っていた。
大丈夫ではなさそうに見えても、彼なら『大丈夫』と答えてしまう。
それがわかっている一華は、今以上に聞いても答えてくれないだろうと諦め、納得した振りを続けた。
葵も、今の一華と同じ選択をして、その結果、大事な友人を失う結果となってしまった。
一華の現状と葵の話があまりに似ており、結末まで一緒になってしまうんじゃないかと。想像すらしたくないのに、頭には最悪な光景が映り出す。
「い、いやだ……」
頭に浮かぶ光景を消そうと頭を抱え、目からは大粒な涙がぼろぼろと落ちる。
体をガタガタと震わせ、膝から崩れ落ちた。
「いやだ」と同じ言葉を繰り返し体を震わせる一華を見て、葵は唖然。だが、すぐに下唇を噛み、拳を握る。
その場に崩れ落ちた一華と同じ視線になるように、片膝をつき彼女の肩を両手で掴んだ。
「しっかりしなさい一華!!!」
「っ!?」
葵の叫び声により、一華は震える体のまま彼女を見あげた。
「いい? 黒華先輩がどのような子か私は分からない。けれど、まだ諦めるには早いと思うの。私の時は何も行動を起こすことなく終わってしまったけれど、貴方達にはまだ時間があるわ。行動を起こす時間が。ここで震えていても、誰も助からない。ここで怯えていても、貴方の大事な人は助からないの。助けたいのなら、行動を起こしなさい、考えなさい、調べなさい。このまま脅えているだけでは、一生後悔する結果となるわよ」
葵の薄紅色の瞳が恐怖している一華の心を射抜き、発破をかけた。
今まで葵にここまで強く物事を言われたことがない一華にとって、今回のは初めてのこと。今までの葵とは思えない態度、言動に目を丸くする。だが、直ぐに顔を俯かせ黒い瞳を揺らした。
このまま行動を起こさなければ一生後悔する結果となる。
葵の言葉に、胸が鷲掴みされ苦しい。それと同時に、このままでは駄目だと自分を奮い立たせることが出来た。
横に垂らしている手を強く握り、下げた顔をゆっくりと上げ、一華を見ている母親と目を合わせる。
一華の黒く、光のある瞳は、真っ直ぐ葵の薄紅色の瞳を見つめ、視線が交差した。
先程までの恐怖心は感じられない。凛々しく迷いのない瞳を目をしており、葵は安心したかのように息を吐き、肩を掴んでいた手をそっと離した。
「貴方は私の自慢の娘、大丈夫。貴方なら、貴方達なら、必ず大事な人を助けることが出来るわよ」
「うん、ありがとう、お母さん!!」
「ええ。私にも出来ることがあるのなら言ってちょうだい。何でもするわ」
一華の頭を撫でながら言うと、「それじゃ」と一華が一つ、母親に提案した。
「私、もっと黒い薔薇について知りたい。個性の花について調べられる所って、ある?」
「そうねぇ。図書館とかにはあるけれど、一般的な物しかないわ。黒い薔薇が書かれているかどうか……」
頬に手を当て考えていると、先程まで話を聞いていた曄途が手を挙げた。
「個性の花は、僕も調べたことがあるので、まだ家に資料が残っているはずです。なので、個性の花については僕が調べます。蝶赤先輩と糸桐先輩は黒華先輩について聞いていただけると嬉しいです」
「でも、調べると言ってもどうすればいいの? 私達は先輩について詳しく知らない。家すらも、知らないの。頼りの綱である侭先生は絶対に口を割らないだろうし……」
曄途の言葉に真理が自信なさげに言う。
うーんと一緒に考えていると、何かを思い出したかのように曄途は「あ」と声を上げた。
「侭先生なんですが、様子がおかしかったですよね。何かを隠しているような感じでした」
「それは他の教師にも言える事じゃない? だって、黒華先輩は風邪じゃないもん。絶対」
「では、先生達は何を隠してるのでしょうか」
一華は曄途の言葉に首を傾げる。真理も同じく首を傾げ、眉間に皺を寄せた。
そんな時、葵が過去に調べた記憶を頼りに口を開く。
「確か、赤い薔薇と黒い薔薇は交じり合ってはいけない。そのような話を耳にしたことがあるわ」
「それって、なんで?」
葵の言葉に一華が疑問の声を上げる。
質問に答えようとするが、肝心なところはわかっておらず首を横に振る。
「ごめんさない、そこまではわからないわ。確か、が㎜ばって図書館とかで調べようとしたのだけれど、これだけは出てこなかったはずなのよ」
葵の言葉に三人は肩を落とす。
でも、すぐに顔を上げやる事を話し合った。
「先生は多分、黒い薔薇と赤い薔薇が交じり合ってはいけないことを知っているはず。もしかしたら、私と黒華先輩を引き離そうと何かをしているのかも」
「それはあり得るよね。聞き分けのよさそうな黒華先輩を選んだのも何かありそう。どこかで監禁されているとか?」
「もし、監禁な度でしたら侭先生が一番怪しいかもしれませんね。一番距離が近いため、怪しまれることなく事を進められるでしょう」
三人はお互いに目を合わせ、力強く頷く。
「明日からのやるべきこと、整理出来ましたね」
「そうだね。私と真理は明日職員室に向かうわ。白野君は黒薔薇に付いてと、お母さんが言っていた言い伝えについて調べてほしい」
「わかりました、任せてください」
これからの動きを話し合った三人は、明日から実行すると伝え、一華は雨が上がった外へと二人を見送った。