涙を流し、縋ってくる娘の背中を撫で、葵は暖かな手で抱き留める。
「落ち着いて、大丈夫。話してごらんなさい」
今にも泣き出しそうな一華の頬に手を添え、葵は優しく諭す。
あふれ出そうな涙を拭きとり、一華は目線を落としながら今までの経緯を話しだした。
高校の先輩が自分に告白をしてきたこと、学校で酷いいじめにあっていたが、助けてくれすぐに解決してくれた事。自分を落とそうと毎日のように声をかけてくれていたこと。
その先輩の個性の花が黒い薔薇であること、痕跡すら残さず失踪してしまったこと。
途中、怒りや悲しみなどといった、複雑な感情によりうまく言葉に出来なかったが、母親が安心させるように声をかけてあげたり、真理や曄途が補足をしたため、何とか伝えきることができた。
三人の話を聞いた葵は、眉間に深いしわを寄せ、考え込む。
「…………そうねぇ。黒い薔薇については、私が学生の時、少しだけ調べたことがあるわ」
「え、そうなの? でも、なんで?」
「私の親友だった人の個性の花が、黒い薔薇だったからよ」
葵の衝撃の告白に、三人は驚きすぎて口をあんぐり。何も言えず、思い出しながら語る葵を見た。
「私の友人に、黒い薔薇の子がいたの。その子は女の子だったのだけれどね。その子は周りから酷いいじめを受けていた。理由は、個性の花が黒い薔薇だから」
いじめの原因が個性の花。なぜ、個性の花だけで酷いいじめが起きてしまうのか。
怒りを表に出さないよう拳を握り、一華は葵の話を邪魔しないように口を閉ざし続けた。
「教科書を隠され得たり、机に酷い悪口を書かれたり。学校の裏では、服に隠れているところに暴力。お金をせびった時もあったみたい。それもこれも、すべては個性の花が黒い薔薇だから」
話を聞いただけで怒りがふつふつと芽生えるのと同時に、自身がいじめられていた記憶も共に蘇り、我慢できなくなった一華は”バン!!”とテーブルを強く叩いた。
「何で!? なんで個性の花だけでそこまでやられなければならないの!? どうして個性の花が薔薇なだけで、周りから酷いいじめを受けなければならないの!? 納得ができない!!」
怒りのままに立ち上がり、甲高い声で叫ぶ。彼女と同じ気持ちの真理と曄途も怒りで顔を赤くし、怒りを表した。
「本当にそうだよ!! 個性の花だけがその人じゃない。なんでそんな当たり前なことを周りの人はわからないの!!」
「まったくですよ。理解ができません」
二人の言い分に葵は悲しげに微笑み、目を伏せ先ほどから変わらない声で二人の質問に答えた。
「黒い薔薇は、マイナスな言い伝えしかないのよ」
静かな声から放たれた言葉に三人は息をのみ、葵に注目した。
「私が調べた限りでは、黒い薔薇は悪魔と呼ばれ、忌み嫌われていたらしいの。他には悪魔の子や、悪魔の生まれ変わりなど。それに加え、黒い薔薇の花言葉は、恨みや憎しみといったものが挙げられる。調べれば他にも花言葉はあるのだけれど、この二つが有名になってしまい、皆黒い薔薇を出す子とは仲良くしたくないみたいなのよ」
過去を思い出し、親友がされてきた酷い仕打ちに葵は下唇を噛んだ。
顔を俯かせ、表情は三人に見せないように配慮しつつ、怒りを隠し通す。
苛立ちが芽生えた葵だったが、深呼吸をして落ち着き、話の続きをした。
「黒い薔薇の噂に尾びれがつき、近づくとこちらにも不幸が降り注ぐだの、個性の花を悪魔に侵食されるだの。根も葉もない噂が流され、真実かも分からない言葉に踊らされ、周りの人達は黒い薔薇を出す私の親友を避け、いじめを始めた。私はそんな言い伝えより、彼女の人柄が好きだったからずっと一緒にいたし、守りたいとも思った。でも、結局、守ることが出来なかったわ」
「守ることが、出来なかった……?」
過去形になっている事に疑問を抱き、怖々と一華は母親に問いかけた。
「三本の薔薇の言い伝え。赤い薔薇は、薔薇を出す人から愛されなければ手から弦が現れ動けなくなる。白い薔薇は人を一途に愛さなければ体中に薔薇の痣が現れる。黒い薔薇は、嘘をつき続けると花吐き病が発症してしまう。私の親友は、いつも私にこう言っていたわ。『大丈夫』とね。私もその言葉を信じ、深く聞こうとしなかった。けれど、あの子の最後の姿を見て、私の判断は間違えていたと、自覚してしまったの」
母親の続きの言葉が聞こえた時、三人は今まで以上に顔面を青くし、一華は恐怖のあまり椅子をがたっと鳴らし逃げる後退する。
緊張が走る中、葵から放たれた言葉は、三人にとって衝撃過ぎて言葉を発する事が出来なかった。
「私が最後に見た親友の姿は、花吐き病が発症し、口から大量の黒い薔薇を出し絶滅している姿だったのよ」
「落ち着いて、大丈夫。話してごらんなさい」
今にも泣き出しそうな一華の頬に手を添え、葵は優しく諭す。
あふれ出そうな涙を拭きとり、一華は目線を落としながら今までの経緯を話しだした。
高校の先輩が自分に告白をしてきたこと、学校で酷いいじめにあっていたが、助けてくれすぐに解決してくれた事。自分を落とそうと毎日のように声をかけてくれていたこと。
その先輩の個性の花が黒い薔薇であること、痕跡すら残さず失踪してしまったこと。
途中、怒りや悲しみなどといった、複雑な感情によりうまく言葉に出来なかったが、母親が安心させるように声をかけてあげたり、真理や曄途が補足をしたため、何とか伝えきることができた。
三人の話を聞いた葵は、眉間に深いしわを寄せ、考え込む。
「…………そうねぇ。黒い薔薇については、私が学生の時、少しだけ調べたことがあるわ」
「え、そうなの? でも、なんで?」
「私の親友だった人の個性の花が、黒い薔薇だったからよ」
葵の衝撃の告白に、三人は驚きすぎて口をあんぐり。何も言えず、思い出しながら語る葵を見た。
「私の友人に、黒い薔薇の子がいたの。その子は女の子だったのだけれどね。その子は周りから酷いいじめを受けていた。理由は、個性の花が黒い薔薇だから」
いじめの原因が個性の花。なぜ、個性の花だけで酷いいじめが起きてしまうのか。
怒りを表に出さないよう拳を握り、一華は葵の話を邪魔しないように口を閉ざし続けた。
「教科書を隠され得たり、机に酷い悪口を書かれたり。学校の裏では、服に隠れているところに暴力。お金をせびった時もあったみたい。それもこれも、すべては個性の花が黒い薔薇だから」
話を聞いただけで怒りがふつふつと芽生えるのと同時に、自身がいじめられていた記憶も共に蘇り、我慢できなくなった一華は”バン!!”とテーブルを強く叩いた。
「何で!? なんで個性の花だけでそこまでやられなければならないの!? どうして個性の花が薔薇なだけで、周りから酷いいじめを受けなければならないの!? 納得ができない!!」
怒りのままに立ち上がり、甲高い声で叫ぶ。彼女と同じ気持ちの真理と曄途も怒りで顔を赤くし、怒りを表した。
「本当にそうだよ!! 個性の花だけがその人じゃない。なんでそんな当たり前なことを周りの人はわからないの!!」
「まったくですよ。理解ができません」
二人の言い分に葵は悲しげに微笑み、目を伏せ先ほどから変わらない声で二人の質問に答えた。
「黒い薔薇は、マイナスな言い伝えしかないのよ」
静かな声から放たれた言葉に三人は息をのみ、葵に注目した。
「私が調べた限りでは、黒い薔薇は悪魔と呼ばれ、忌み嫌われていたらしいの。他には悪魔の子や、悪魔の生まれ変わりなど。それに加え、黒い薔薇の花言葉は、恨みや憎しみといったものが挙げられる。調べれば他にも花言葉はあるのだけれど、この二つが有名になってしまい、皆黒い薔薇を出す子とは仲良くしたくないみたいなのよ」
過去を思い出し、親友がされてきた酷い仕打ちに葵は下唇を噛んだ。
顔を俯かせ、表情は三人に見せないように配慮しつつ、怒りを隠し通す。
苛立ちが芽生えた葵だったが、深呼吸をして落ち着き、話の続きをした。
「黒い薔薇の噂に尾びれがつき、近づくとこちらにも不幸が降り注ぐだの、個性の花を悪魔に侵食されるだの。根も葉もない噂が流され、真実かも分からない言葉に踊らされ、周りの人達は黒い薔薇を出す私の親友を避け、いじめを始めた。私はそんな言い伝えより、彼女の人柄が好きだったからずっと一緒にいたし、守りたいとも思った。でも、結局、守ることが出来なかったわ」
「守ることが、出来なかった……?」
過去形になっている事に疑問を抱き、怖々と一華は母親に問いかけた。
「三本の薔薇の言い伝え。赤い薔薇は、薔薇を出す人から愛されなければ手から弦が現れ動けなくなる。白い薔薇は人を一途に愛さなければ体中に薔薇の痣が現れる。黒い薔薇は、嘘をつき続けると花吐き病が発症してしまう。私の親友は、いつも私にこう言っていたわ。『大丈夫』とね。私もその言葉を信じ、深く聞こうとしなかった。けれど、あの子の最後の姿を見て、私の判断は間違えていたと、自覚してしまったの」
母親の続きの言葉が聞こえた時、三人は今まで以上に顔面を青くし、一華は恐怖のあまり椅子をがたっと鳴らし逃げる後退する。
緊張が走る中、葵から放たれた言葉は、三人にとって衝撃過ぎて言葉を発する事が出来なかった。
「私が最後に見た親友の姿は、花吐き病が発症し、口から大量の黒い薔薇を出し絶滅している姿だったのよ」