屋上での出来事から一週間。一華、真理、曄途は、今では共にお昼休みを屋上で過ごしていた。
お弁当を広げ、楽しく食事をする。それを望んでいたが、三人は誰も話そうとはせず、もそもそと食べていた。
沈黙に耐えられなくなった真理が、箸をカチャっとお弁当の上に置いた。
「先輩、来ないね。学校には来てるのかな」
「来ていないと思う。だって、来てたら必ず一回は会うはずだもん。教室に一度行ったけど、黒華先輩の姿はなかった」
「心配ですね、先日の事がありますし。無理、していなければいいのですが…………」
おかずを口に運ぼうとした一華の手が、彼の言葉で止まる。
「どうしたの? 一華」
箸を置いてしまった一華に、真理が問いかけると、彼女は下げていた目線を上げ二人を見る。
漆黒の瞳は不安げに揺れ、眉間には深い皺が刻まれていた。
「黒華先輩、このまま学校に来ないつもりじゃないよね? まさか、何も言わずにいなくなったり、とか。さすがに、考えていないよね?」
二人に問いかけるが、目線をそらされるだけで、答えは返ってこない。
重苦しい沈黙が三人の中に流れる。
この空気を変えようと真理は口を開くが、言葉を見つけることが出来ず閉じられた。
目を伏せ、下を見る二人に、真理も目線を下へと下げた。
「…………行こう」
「え、どこにでしょうか」
真理が突然一言、言った。だが、それだけではどこに行きたいのかわからず、曄途が再度問いかけた。
「三年生の教室。もしかしたらすれ違いになっているだけかもしれないし、今日は来ているかも。遠くからでも姿を確認出来れば、一華も安心出来るでしょ?」
真理は立ち上がり、顔を俯かせている一華に手を伸ばした。
少しだけ顔を上げ、一華は真理を見る。
「一華!」
もう一度名前を呼ぶと、一華はやっと手を伸ばした。
重なった手を掴み、勢いよく引く。一華は驚きの声を上げながらも立ち上がり、真理と目線を合わせた。
「よし! 白野君も行こう!」
「あ、はい」
三人は広げていたお弁当箱を簡単に片づけ、急いで階段を駆け下りた。
今はお昼休みなため、廊下や教室内はにぎやか。人が集まり、話をしている。
三人は人にぶつからないように駆け足で三年の教室へと向かう。
「着いた」
無事に優輝のクラスである3-Bの教室にたどり着いた。
一華は一度来たことがあると先ほど言っていたが、中を少し覗いただけで終わっている。そのため、今も緊張しており体を小さくしていた。
曄途も同じく眉を下げ躊躇している。
二人が尻込みしていると、真理が率先して教室を覗き込んだ。
顔だけを覗かせ中を見回していると、三年生の一人が真理に気づき声をかけてきた。
「あら、真理ちゃんじゃない。どうしたの? 誰かを探してる?」
「あ、京子先輩!!」
二人は顔見知りらしく、お互い名前を呼び合っている。
楽し気に話し出してしまった二人を、後ろから曄途と一華は目を丸くしながらじぃっと見続けた。
二人からの視線を背中で感じ、真理はまだ話が続きそうな京子の話を止め、無理やり本題へと入る。
「京子先輩、黒華先輩って今日学校に来ていますか?」
「え、黒華君? な、なんで?」
優輝の名前を出した瞬間、笑顔だった先輩が急に顔を引きつらせ始めた。
目をさ迷わせ、「えぇっと」と答えにくそうにする。
首を傾げ返答を待っていると、やっと言葉がまとまり、重い口を開き先輩は話し出した。
「えぇッとね。黒華君。もう一週間、学校に来ていないの。家にもいないみたいで、無断で欠席。先生たちも困っていて、親も捜索願を出そうか悩んでいるみたい」
「え、行方不明という事ですか?」
「みたいだね」
行方不明という事は、誘拐されたのかもしれないし、なにかの事故に巻き込まれたのかもしれない。
ただ事ではないはずなのに、話している先輩は気まずそうに顔を引きつらせるだけで、心配しているようには見えない。
何故、同じくらいの人が行方不明だと言うのに、ここまで不安や心配しないのだろう。なぜ、中にいる人たちは心配の声一つ上げないのだろう。不思議に思い、真理は嫌な感じがするが、勇気をもってこの疑問を質問した。
「なんで、誰も黒華先輩の事を心配していないんですか?」
「え、んー。えっと。すごくいいにくいんだけどね? 黒華君、クラスに馴染めていないんだよ」
「クラスに馴染めていない? それは、人とあまり話したがらないとか?」
「それもあると思う。だって、いつでも一人なんだもん。誰かが話しかけても簡単な返答だけだし、適当。自ら声をかけようとはしないし、いつの間にか教室から居なくなっているし。気配もないsからちょっと不気味なんだよね。ずっと無表情だし。愛想笑いくらいすればいいのに…………」
眉を下げ、目を逸らしながら教えてくれた先輩の言葉が納得できず、三人は目を合わせ首をひねる。
屋上での彼はいつでも笑い、人の話にはしっかりと受け答えをしていた。
一華に関しては、彼から話しかける事が多く、今の話は信じられなかった。
「それ、本当ですか?」
「え?」
「本当の事ですか? 黒華先輩、笑わないですか? 愛想悪いですか? 声をかけないですか?」
一華からの質問責めに、先輩は狼狽え後ろに下がる。だが、一華は戸惑っている彼女などお構いなく、一歩下がれば、一歩近づき。一歩下がれば、また近づく。一向に距離を取る事が出来ず、先輩は教室内にまで入り、窓側へと後ずさる。
「ちょ、一華!」
真理からの呼びかけも気にせず、一華は質問に答えない先輩を逃がさず追いかけ続けた。
「一華!!!!!」
「っ、あ、ごめんなさい」
やっと真理の声が聞こえた一華は、周りを見て慌てたように先輩に謝罪。足早に教室を出た。
先輩は窓に腰を掛け、一華を怯えたような顔で見る。
周りの人は、クラスで浮いている存在である優輝を探している後輩たちを見て、眉を顰めたり首を傾げたりと。不思議そうに思っている様子だった。
だが、誰も関わろうとしない。誰も、三人に声をかけようとしない。その理由は一つ。めんどくさい事に巻き込まれたくないから。
優輝は誰ともかかわろうとしないため、彼を深く知っている人はいない。知ろうとする人もいない。
誰も彼とは関わりたくないとさえ思っていた。
その空気を感じ取った三人は、もう教室に居たくないと。「すいませんでした」と一言、その場を去ろうとした。だが、先輩が去ろうとする三人を呼び止め、駆け寄った。
周りに聞こえないような声量で、気まずそうに顔を逸らし言う。
「言っておくけど、あいつとは関わらない方がいいわよ。私見た事があるの」
「見た事?」
「えぇ、あの人、人に自身の個性の花を離したがらないの。聞いても絶対に超えたない。だから知っている人は少ないのだけれど、私は見てしまった。黒華君の個性の花は、この世で一番忌み嫌われている、悪魔の生まれ変わりとも呼ばれている花、黒い薔薇だよ。花言葉は、恨みと憎しみ。関わったらkンと撃ち合いなうらみがこっちにふりそそぐかもしれない。個性の花がそう言っている。だから、関わる事はあまりお勧めしないよ」
忠告のつもりか。先輩はそんなことを言っている。
真理は自身の部活の先輩なため何も言えず、眉を下げ気まずそうに顔を逸らすが、曄途と一華は違う。
まだ浮かくかかわったこともなければ、彼の事を胸を張って知っているとも言えない。まだ関わって数か月。だが、今の言い分はどうしても我慢できず、一華が最初に大きな声を上げた。
「いい加減なことを、言わないでください!! 黒華先輩の事何一つわかっていないくせに!!!!」
それだけを言い、一華はその場から走り去る。あとを追いかけるように真理が追いかけ、残された曄途は驚きでその場に立ち尽くしている先輩へと振り向いた。
「あの、今のは完全に先輩が悪いと思います」
「な。何でよ。だって、黒薔薇の花言葉は…………」
「確かに、黒薔薇の花言葉には恨みや憎しみと言ったマイナスな要素があります。でも、それだけではなく、決して滅びることのない愛、永遠。と言った、プラスな言葉も黒い薔薇には含まれています。それなのに、個性の花だけを見て、勝手に相手の性格を決めつけ、勝手に遠巻きにするのはさすがに酷いと思いますよ」
それだけを言い残し、曄途は「では」と、一礼をしその場から居なくなった。
残された女性は困惑と、三人が何を言っているのかわからない怒りなど。様々な感情が芽生え、「くそっ」と、どこにぶつければいいのかわからない怒りを無意味に吐き出した。
お弁当を広げ、楽しく食事をする。それを望んでいたが、三人は誰も話そうとはせず、もそもそと食べていた。
沈黙に耐えられなくなった真理が、箸をカチャっとお弁当の上に置いた。
「先輩、来ないね。学校には来てるのかな」
「来ていないと思う。だって、来てたら必ず一回は会うはずだもん。教室に一度行ったけど、黒華先輩の姿はなかった」
「心配ですね、先日の事がありますし。無理、していなければいいのですが…………」
おかずを口に運ぼうとした一華の手が、彼の言葉で止まる。
「どうしたの? 一華」
箸を置いてしまった一華に、真理が問いかけると、彼女は下げていた目線を上げ二人を見る。
漆黒の瞳は不安げに揺れ、眉間には深い皺が刻まれていた。
「黒華先輩、このまま学校に来ないつもりじゃないよね? まさか、何も言わずにいなくなったり、とか。さすがに、考えていないよね?」
二人に問いかけるが、目線をそらされるだけで、答えは返ってこない。
重苦しい沈黙が三人の中に流れる。
この空気を変えようと真理は口を開くが、言葉を見つけることが出来ず閉じられた。
目を伏せ、下を見る二人に、真理も目線を下へと下げた。
「…………行こう」
「え、どこにでしょうか」
真理が突然一言、言った。だが、それだけではどこに行きたいのかわからず、曄途が再度問いかけた。
「三年生の教室。もしかしたらすれ違いになっているだけかもしれないし、今日は来ているかも。遠くからでも姿を確認出来れば、一華も安心出来るでしょ?」
真理は立ち上がり、顔を俯かせている一華に手を伸ばした。
少しだけ顔を上げ、一華は真理を見る。
「一華!」
もう一度名前を呼ぶと、一華はやっと手を伸ばした。
重なった手を掴み、勢いよく引く。一華は驚きの声を上げながらも立ち上がり、真理と目線を合わせた。
「よし! 白野君も行こう!」
「あ、はい」
三人は広げていたお弁当箱を簡単に片づけ、急いで階段を駆け下りた。
今はお昼休みなため、廊下や教室内はにぎやか。人が集まり、話をしている。
三人は人にぶつからないように駆け足で三年の教室へと向かう。
「着いた」
無事に優輝のクラスである3-Bの教室にたどり着いた。
一華は一度来たことがあると先ほど言っていたが、中を少し覗いただけで終わっている。そのため、今も緊張しており体を小さくしていた。
曄途も同じく眉を下げ躊躇している。
二人が尻込みしていると、真理が率先して教室を覗き込んだ。
顔だけを覗かせ中を見回していると、三年生の一人が真理に気づき声をかけてきた。
「あら、真理ちゃんじゃない。どうしたの? 誰かを探してる?」
「あ、京子先輩!!」
二人は顔見知りらしく、お互い名前を呼び合っている。
楽し気に話し出してしまった二人を、後ろから曄途と一華は目を丸くしながらじぃっと見続けた。
二人からの視線を背中で感じ、真理はまだ話が続きそうな京子の話を止め、無理やり本題へと入る。
「京子先輩、黒華先輩って今日学校に来ていますか?」
「え、黒華君? な、なんで?」
優輝の名前を出した瞬間、笑顔だった先輩が急に顔を引きつらせ始めた。
目をさ迷わせ、「えぇっと」と答えにくそうにする。
首を傾げ返答を待っていると、やっと言葉がまとまり、重い口を開き先輩は話し出した。
「えぇッとね。黒華君。もう一週間、学校に来ていないの。家にもいないみたいで、無断で欠席。先生たちも困っていて、親も捜索願を出そうか悩んでいるみたい」
「え、行方不明という事ですか?」
「みたいだね」
行方不明という事は、誘拐されたのかもしれないし、なにかの事故に巻き込まれたのかもしれない。
ただ事ではないはずなのに、話している先輩は気まずそうに顔を引きつらせるだけで、心配しているようには見えない。
何故、同じくらいの人が行方不明だと言うのに、ここまで不安や心配しないのだろう。なぜ、中にいる人たちは心配の声一つ上げないのだろう。不思議に思い、真理は嫌な感じがするが、勇気をもってこの疑問を質問した。
「なんで、誰も黒華先輩の事を心配していないんですか?」
「え、んー。えっと。すごくいいにくいんだけどね? 黒華君、クラスに馴染めていないんだよ」
「クラスに馴染めていない? それは、人とあまり話したがらないとか?」
「それもあると思う。だって、いつでも一人なんだもん。誰かが話しかけても簡単な返答だけだし、適当。自ら声をかけようとはしないし、いつの間にか教室から居なくなっているし。気配もないsからちょっと不気味なんだよね。ずっと無表情だし。愛想笑いくらいすればいいのに…………」
眉を下げ、目を逸らしながら教えてくれた先輩の言葉が納得できず、三人は目を合わせ首をひねる。
屋上での彼はいつでも笑い、人の話にはしっかりと受け答えをしていた。
一華に関しては、彼から話しかける事が多く、今の話は信じられなかった。
「それ、本当ですか?」
「え?」
「本当の事ですか? 黒華先輩、笑わないですか? 愛想悪いですか? 声をかけないですか?」
一華からの質問責めに、先輩は狼狽え後ろに下がる。だが、一華は戸惑っている彼女などお構いなく、一歩下がれば、一歩近づき。一歩下がれば、また近づく。一向に距離を取る事が出来ず、先輩は教室内にまで入り、窓側へと後ずさる。
「ちょ、一華!」
真理からの呼びかけも気にせず、一華は質問に答えない先輩を逃がさず追いかけ続けた。
「一華!!!!!」
「っ、あ、ごめんなさい」
やっと真理の声が聞こえた一華は、周りを見て慌てたように先輩に謝罪。足早に教室を出た。
先輩は窓に腰を掛け、一華を怯えたような顔で見る。
周りの人は、クラスで浮いている存在である優輝を探している後輩たちを見て、眉を顰めたり首を傾げたりと。不思議そうに思っている様子だった。
だが、誰も関わろうとしない。誰も、三人に声をかけようとしない。その理由は一つ。めんどくさい事に巻き込まれたくないから。
優輝は誰ともかかわろうとしないため、彼を深く知っている人はいない。知ろうとする人もいない。
誰も彼とは関わりたくないとさえ思っていた。
その空気を感じ取った三人は、もう教室に居たくないと。「すいませんでした」と一言、その場を去ろうとした。だが、先輩が去ろうとする三人を呼び止め、駆け寄った。
周りに聞こえないような声量で、気まずそうに顔を逸らし言う。
「言っておくけど、あいつとは関わらない方がいいわよ。私見た事があるの」
「見た事?」
「えぇ、あの人、人に自身の個性の花を離したがらないの。聞いても絶対に超えたない。だから知っている人は少ないのだけれど、私は見てしまった。黒華君の個性の花は、この世で一番忌み嫌われている、悪魔の生まれ変わりとも呼ばれている花、黒い薔薇だよ。花言葉は、恨みと憎しみ。関わったらkンと撃ち合いなうらみがこっちにふりそそぐかもしれない。個性の花がそう言っている。だから、関わる事はあまりお勧めしないよ」
忠告のつもりか。先輩はそんなことを言っている。
真理は自身の部活の先輩なため何も言えず、眉を下げ気まずそうに顔を逸らすが、曄途と一華は違う。
まだ浮かくかかわったこともなければ、彼の事を胸を張って知っているとも言えない。まだ関わって数か月。だが、今の言い分はどうしても我慢できず、一華が最初に大きな声を上げた。
「いい加減なことを、言わないでください!! 黒華先輩の事何一つわかっていないくせに!!!!」
それだけを言い、一華はその場から走り去る。あとを追いかけるように真理が追いかけ、残された曄途は驚きでその場に立ち尽くしている先輩へと振り向いた。
「あの、今のは完全に先輩が悪いと思います」
「な。何でよ。だって、黒薔薇の花言葉は…………」
「確かに、黒薔薇の花言葉には恨みや憎しみと言ったマイナスな要素があります。でも、それだけではなく、決して滅びることのない愛、永遠。と言った、プラスな言葉も黒い薔薇には含まれています。それなのに、個性の花だけを見て、勝手に相手の性格を決めつけ、勝手に遠巻きにするのはさすがに酷いと思いますよ」
それだけを言い残し、曄途は「では」と、一礼をしその場から居なくなった。
残された女性は困惑と、三人が何を言っているのかわからない怒りなど。様々な感情が芽生え、「くそっ」と、どこにぶつければいいのかわからない怒りを無意味に吐き出した。