「そういう先輩には、譲れない夢などあるんですか?」
「俺か? あるに決まってるだろ」
「え?! よ、予想ができない……。教えてください!」
曄途の質問にあっさりと答えた優輝。でも、なぜか真理が目を輝かせさらに質問を重ねた。
彼女と同じく興味を持った曄途と一華も、彼の返答を期待して待つ。
視線が集まり目を丸くする優輝だったが、なにか企んでいるような笑みを浮かべ隣に座る一華を見た。
「え?」
嫌な予感が走った一華は顔を青くするが逃げること叶わず、伸ばされた手は彼女の肩を抱き、優輝へと引き寄せられた。
「こいつと結婚すること」
彼の言葉に真理は顔を赤くして歓喜の声をあげ、曄途は赤面し驚愕。
優輝の言葉が理解出来ず、最初は反応を見せることが出来ず顔をあげ彼を見上げていた一華は、徐々に理解し始め、ゆでダコのように顔を真っ赤にした。
「な、なななな、なに言ってんですかぁぁぁあああああああ!!!!!」
今まで聞いたことがない一華の叫び声が優輝の鼓膜を大きく震わせ、思わず頭を押えた。
「お前なぁ………、頭がキーンとするんだが? 声たっか」
「だ、だって! そんなことを言われるなんて思わなくて。それと、先程の体勢は何ですか! いきなりあんなことはもうやめてください!」
「いきなりじゃなかったらいいのか?」
「そういう問題ではありません!!」
息を切らし、優輝から距離を取り一華は警戒する。
そんな彼女が可愛くて仕方がないと優輝はやれやれと肩を落としつつも、また近づこうと真紅の瞳を光らせ八重歯を見せた。
狙った獲物は逃がさない。そう言うような彼に、一華は赤面した顔を真理と曄途に向け助けを求める。だが、二人はしっかりと空気を読み、笑顔を返した。
「愛されてるじゃん、一華。良かったね!」
「素敵だと思います。邪魔はしない方がいいかなと思いますので」
「は、薄情者ぉぉおおお!!!」
じりじり近づいてくる優輝から後ずさる一華。
まだ顔が赤く、諦めず二人に助けを求めるが意味は無い。
「たーすーけーてー!!!!」
「そんなに嫌がることねぇだろ? ほれ、こっちこーい」
「ぃぃぃぃいいいやぁぁあああああああ!!」
一華の叫び声が屋上に響き渡る中、同時に真理と曄途の笑い声も聞こえる。
一華以外の人の笑い声が澄んでいる青空に響き渡り、明るい空気が広がっていく。
口に手を当て笑い声をあげている曄途は、はっとなり自然と笑っている自分に驚いた。
今までこのように笑った事は、個性の花がわかってからはなかった。
『笑っていれば世間体がいい』『笑っていれば周りの事を扱いやすくなる』『笑っていれば印象がいい』
そのように言いつけられていた曄途は、楽し気に笑っている三人を見てまたしても作られた笑みではなく、自然と笑顔が浮かぶ。
これが本当の笑みなのかと、呆れたように肩をすくませ、青空を見上げた。
今までの笑顔も自分の笑顔。今までの顔も、今の顔も、全部自分の顔。でも、今が一番、自分らしく笑えている。今が一番、楽しい、嬉しい。
仮面のような笑みを浮かべていた曄途でも、今こうして、笑うことが出来る。
「確かに、気づかれても仕方がないですね」
青空を見上げている曄途が呟き、三人は動きを止め彼を見る。
仮面のような笑みではなく、自然と浮かぶ笑みを浮かべている彼に、一曄達は顔を見合せ同じように笑った。
「人の笑顔は、人を幸せにする。ただ偽っているだけでは、人を幸せになんてできやしない。人を幸せに出来るのは、本当の笑顔だよ!」
真理が指で口の端を横に伸ばし笑顔を向ける。その表情を見た曄途は、またしても笑顔になる。
二人の笑顔が屋上に響き、幸せが二人を包み込む。
二人を一華と優輝は優しく微笑みながら見ており、お互いに笑いあった。
屋上には四人の幸せな笑顔が広がり、素敵な空間となっていた。
曄途はいつものように執事の車に乗り家へと帰宅。真っすぐ部屋に戻り着替えを始めた。
彼の部屋は必要最低限の物しかない。
机にベット、壁側には参考書や会社についての資料が隙間なく詰められており、高校生の部屋とは到底思えない。
鞄を机に置き部屋着に着換えると、ふと。机に置かれている一つのカメラが目に入る。
手に取り見てみると、昔の物なため傷だらけなのがわかった。
壊れてはいないが、古く、数年動かしていないため、ボタンを押しても反応がない。仕方がないなと眉を下げ、再度机にカメラを置き勉強をし始めようとした。
ペンを手に取り宿題にとりかかろうとするが、目の端に置いてあるカメラに意識が取られる。
今は宿題に集中しろと、自分に言い聞かせ再度集中しようとするが、どうしても集中できない。カメラに目線が行ってしまい、ペンが先ほどから進まない。
「…………はぁ」
今すぐに集中するのは無理だと諦め、音に気を付けながらドアを開ける。顔だけを廊下に出し周りに人がいないか確認した。
人影はなく、足音すら聞こえない。誰もいない事がわかりホッと一息を付き部屋へと戻った。
ドアに背中を付け、机の上に置かれているカメラを見た。
「…………写真は、素敵な思い出を刻んでくれる。届けてくれる。僕も、人に届けられるような写真を撮りたい」
一度溢れてしまった想いを再度閉じ込めることなど出来る訳もなく、我慢できなくなった曄途はカメラに手を伸ばし、本当に動かないのかボタンを押す。だが、動かない。
「充電がないのかな……。数年もいじっていないから当然か」
当たり前な事を考え、大事にしまっていた充電器を机の引き出しから取り出した。
充電をし始め、その間は宿題をする。さっきよりは集中する事ができ、シャッシャッとペンの走る音が響く。
宿題の空欄は徐々に埋められ、わずか十分程度で宿題は終わった。
机にペンを置き、背中を伸ばし後ろを振り向く。
ベットの近くに充電器と繋がられているカメラ。まだ十分程度しか経っていないとわかり、勉強の続きをしようとペンに手を伸ばすが、我慢できなくなり椅子から立ち上がった。
充電器に近付き、カメラのボタンを押す。一回目は何も反応がなく、二回目も駄目。
壊れてしまったのかと悲しんでいると、三回目でやっとカメラから音が聞こえ始めた。
「あっ、動いた」
やっと動かす事ができ、曄途は笑顔でカメラを操作し始めた。
カメラの後ろには画面があり、”フォルダ”と書かれているボタンを押す。すると、過去に曄途が撮った写真が映し出された。
一枚目はただの公園を映したもの。次はタンポポ、青空、親と一緒に行った花畑など。
様々な景色が次々と映し出され、曄途は懐かしいと目を細め楽し気に見続ける。
次のページ、次のページと進んでいると、家族写真が出てきた。
花を見ている母親や、他の子供達に群がられて驚いている父の姿。
母に抱きかかえられ半べそかいている曄途の少年時代まである。
素敵な思い出が込められているカメラは、何時間でも見ていられる。何時間でも楽しむことが出来る。
曄途は今日、久しぶりに勉強から離れ、思い出に浸っていた。
カメラの中に入っていた写真は少なく、すぐに見終わってしまった。だが、また最初に戻り見始める。一枚一枚細部まで見ていると、自分がどれだけカメラが好きだったのかを思い出す。
「…………あ、そうだ」
思い出に囲まれていると、記憶の奥底にしまい込んでいた曄途の夢がふわふわと記憶に蘇る。
「僕は、人の思い出を届けられるような、そんなカメラマンに」
呟いた声は誰にも届かず、空に消える。
両手で持っていたカメラの画面には、家族三人、笑顔で映っている一枚が映し出されていた。
「俺か? あるに決まってるだろ」
「え?! よ、予想ができない……。教えてください!」
曄途の質問にあっさりと答えた優輝。でも、なぜか真理が目を輝かせさらに質問を重ねた。
彼女と同じく興味を持った曄途と一華も、彼の返答を期待して待つ。
視線が集まり目を丸くする優輝だったが、なにか企んでいるような笑みを浮かべ隣に座る一華を見た。
「え?」
嫌な予感が走った一華は顔を青くするが逃げること叶わず、伸ばされた手は彼女の肩を抱き、優輝へと引き寄せられた。
「こいつと結婚すること」
彼の言葉に真理は顔を赤くして歓喜の声をあげ、曄途は赤面し驚愕。
優輝の言葉が理解出来ず、最初は反応を見せることが出来ず顔をあげ彼を見上げていた一華は、徐々に理解し始め、ゆでダコのように顔を真っ赤にした。
「な、なななな、なに言ってんですかぁぁぁあああああああ!!!!!」
今まで聞いたことがない一華の叫び声が優輝の鼓膜を大きく震わせ、思わず頭を押えた。
「お前なぁ………、頭がキーンとするんだが? 声たっか」
「だ、だって! そんなことを言われるなんて思わなくて。それと、先程の体勢は何ですか! いきなりあんなことはもうやめてください!」
「いきなりじゃなかったらいいのか?」
「そういう問題ではありません!!」
息を切らし、優輝から距離を取り一華は警戒する。
そんな彼女が可愛くて仕方がないと優輝はやれやれと肩を落としつつも、また近づこうと真紅の瞳を光らせ八重歯を見せた。
狙った獲物は逃がさない。そう言うような彼に、一華は赤面した顔を真理と曄途に向け助けを求める。だが、二人はしっかりと空気を読み、笑顔を返した。
「愛されてるじゃん、一華。良かったね!」
「素敵だと思います。邪魔はしない方がいいかなと思いますので」
「は、薄情者ぉぉおおお!!!」
じりじり近づいてくる優輝から後ずさる一華。
まだ顔が赤く、諦めず二人に助けを求めるが意味は無い。
「たーすーけーてー!!!!」
「そんなに嫌がることねぇだろ? ほれ、こっちこーい」
「ぃぃぃぃいいいやぁぁあああああああ!!」
一華の叫び声が屋上に響き渡る中、同時に真理と曄途の笑い声も聞こえる。
一華以外の人の笑い声が澄んでいる青空に響き渡り、明るい空気が広がっていく。
口に手を当て笑い声をあげている曄途は、はっとなり自然と笑っている自分に驚いた。
今までこのように笑った事は、個性の花がわかってからはなかった。
『笑っていれば世間体がいい』『笑っていれば周りの事を扱いやすくなる』『笑っていれば印象がいい』
そのように言いつけられていた曄途は、楽し気に笑っている三人を見てまたしても作られた笑みではなく、自然と笑顔が浮かぶ。
これが本当の笑みなのかと、呆れたように肩をすくませ、青空を見上げた。
今までの笑顔も自分の笑顔。今までの顔も、今の顔も、全部自分の顔。でも、今が一番、自分らしく笑えている。今が一番、楽しい、嬉しい。
仮面のような笑みを浮かべていた曄途でも、今こうして、笑うことが出来る。
「確かに、気づかれても仕方がないですね」
青空を見上げている曄途が呟き、三人は動きを止め彼を見る。
仮面のような笑みではなく、自然と浮かぶ笑みを浮かべている彼に、一曄達は顔を見合せ同じように笑った。
「人の笑顔は、人を幸せにする。ただ偽っているだけでは、人を幸せになんてできやしない。人を幸せに出来るのは、本当の笑顔だよ!」
真理が指で口の端を横に伸ばし笑顔を向ける。その表情を見た曄途は、またしても笑顔になる。
二人の笑顔が屋上に響き、幸せが二人を包み込む。
二人を一華と優輝は優しく微笑みながら見ており、お互いに笑いあった。
屋上には四人の幸せな笑顔が広がり、素敵な空間となっていた。
曄途はいつものように執事の車に乗り家へと帰宅。真っすぐ部屋に戻り着替えを始めた。
彼の部屋は必要最低限の物しかない。
机にベット、壁側には参考書や会社についての資料が隙間なく詰められており、高校生の部屋とは到底思えない。
鞄を机に置き部屋着に着換えると、ふと。机に置かれている一つのカメラが目に入る。
手に取り見てみると、昔の物なため傷だらけなのがわかった。
壊れてはいないが、古く、数年動かしていないため、ボタンを押しても反応がない。仕方がないなと眉を下げ、再度机にカメラを置き勉強をし始めようとした。
ペンを手に取り宿題にとりかかろうとするが、目の端に置いてあるカメラに意識が取られる。
今は宿題に集中しろと、自分に言い聞かせ再度集中しようとするが、どうしても集中できない。カメラに目線が行ってしまい、ペンが先ほどから進まない。
「…………はぁ」
今すぐに集中するのは無理だと諦め、音に気を付けながらドアを開ける。顔だけを廊下に出し周りに人がいないか確認した。
人影はなく、足音すら聞こえない。誰もいない事がわかりホッと一息を付き部屋へと戻った。
ドアに背中を付け、机の上に置かれているカメラを見た。
「…………写真は、素敵な思い出を刻んでくれる。届けてくれる。僕も、人に届けられるような写真を撮りたい」
一度溢れてしまった想いを再度閉じ込めることなど出来る訳もなく、我慢できなくなった曄途はカメラに手を伸ばし、本当に動かないのかボタンを押す。だが、動かない。
「充電がないのかな……。数年もいじっていないから当然か」
当たり前な事を考え、大事にしまっていた充電器を机の引き出しから取り出した。
充電をし始め、その間は宿題をする。さっきよりは集中する事ができ、シャッシャッとペンの走る音が響く。
宿題の空欄は徐々に埋められ、わずか十分程度で宿題は終わった。
机にペンを置き、背中を伸ばし後ろを振り向く。
ベットの近くに充電器と繋がられているカメラ。まだ十分程度しか経っていないとわかり、勉強の続きをしようとペンに手を伸ばすが、我慢できなくなり椅子から立ち上がった。
充電器に近付き、カメラのボタンを押す。一回目は何も反応がなく、二回目も駄目。
壊れてしまったのかと悲しんでいると、三回目でやっとカメラから音が聞こえ始めた。
「あっ、動いた」
やっと動かす事ができ、曄途は笑顔でカメラを操作し始めた。
カメラの後ろには画面があり、”フォルダ”と書かれているボタンを押す。すると、過去に曄途が撮った写真が映し出された。
一枚目はただの公園を映したもの。次はタンポポ、青空、親と一緒に行った花畑など。
様々な景色が次々と映し出され、曄途は懐かしいと目を細め楽し気に見続ける。
次のページ、次のページと進んでいると、家族写真が出てきた。
花を見ている母親や、他の子供達に群がられて驚いている父の姿。
母に抱きかかえられ半べそかいている曄途の少年時代まである。
素敵な思い出が込められているカメラは、何時間でも見ていられる。何時間でも楽しむことが出来る。
曄途は今日、久しぶりに勉強から離れ、思い出に浸っていた。
カメラの中に入っていた写真は少なく、すぐに見終わってしまった。だが、また最初に戻り見始める。一枚一枚細部まで見ていると、自分がどれだけカメラが好きだったのかを思い出す。
「…………あ、そうだ」
思い出に囲まれていると、記憶の奥底にしまい込んでいた曄途の夢がふわふわと記憶に蘇る。
「僕は、人の思い出を届けられるような、そんなカメラマンに」
呟いた声は誰にも届かず、空に消える。
両手で持っていたカメラの画面には、家族三人、笑顔で映っている一枚が映し出されていた。