「白野君!! 一緒にご飯食べよ!」

 当たり前のように一華と真理は一年生の教室に向かい、曄途を迎えに行く。
 最初は戸惑っていたが、今ではため息を吐きつつ自ら一緒に屋上に向かってくれるようになった。

 めんどくさそうな表情を浮かべているが、内心は嬉しく、二人の見えないところで笑みを浮かべていた。

 屋上に行くと優輝が柵に寄りかかり、青空を眺め三人を待っている姿がある。
 扉が開く音が聞こえ振り返り、「よぉ」と出迎えた。

 流れるように円になり、みんなでお弁当を広げると、曄途がおずおずと三人に問いかけた。

「…………あの、もうそろそろ教えていただいてもいいですか?」

 彼からの質問に顔を合わせると、代表して真理が説明をした。

「私達、まだ怒っているの。体育大会の出来事」

 真理の言葉に曄途は息を飲み、気まずそうに顔を逸らした。

「あの時は、本当にすいっ――……」
「だから、私達は貴方を学校の時だけでも楽しいと思ってもらえるようにしたいなって!」
「っ、え?」

 真理は曄途の言葉を遮り、覇気のある声で言い切った。
 真っすぐと曄途を見つめ、握っている箸を強く握る。彼のグレーの瞳を見つめ、自分達の意思を伝えた。

「自分勝手だとは思うし、貴方が迷惑だと思っているのも分かってる。それに、私達はまだ出会ってそこまでの日数を過ごしていない。まだ二か月くらいだったかな。それでも、貴方が苦しんでいるのはわかったし、心から笑えていないのもわかった」

 真理の言葉に、曄途は一華と優輝を見る。
 二人は頷き、真理と同じ気持ちだよと伝えた。

「学校にいる時だけでも幸せを感じてくれたら。ここが、白野君の心のよりどころになってくれれば、私達は嬉しいの」

 笑顔を浮かべ言う真理は、キラキラと輝いており、まるで闇を照らす太陽のように曄途の瞳に映る。
 透き通るような綺麗な青空を背景に、向日葵のような元気で綺麗な、満面な笑みを浮かべる真理を見つめ、曄途は思わず口にした。

「――――綺麗」
「っ、え」
「っ!!」

 思わず零れ落ちた言葉に慌てて口を閉じるが、赤くなっている耳まで隠す事が出来ず、真理まで顔が赤くなる。
 顔を逸らし何とかごまかそうとするが、いい言葉が出てこなく、真理からの視線から逃れるように曄途は話題を強制的に変えた。

「えっと、なんで、わかったんですか。僕は完璧に演じなければならないのに……」

 まだ赤い頬を抑え、三人に聞いた。
 真理は嬉しさと困惑などの様々な感情が入り混じり答えられる状況じゃないため、代わりに一華が答える。

「貴方が浮かべている笑顔は、他の人と違う気がしたから、かな。これは、感覚的なものだからこれ以上の説明が出来ない。ごめんね」
「そ、うなんですね。はぁ、しくったなぁ。これじゃ、次期社長の名が聞いて呆れる……」

 たははと眉を下げ乾いた息を吐く彼に、今まで黙っていた優輝がやっと話し出した。

「お前自身はこうなりたいとかあるのか?」
「こうなりたいとは?」
「夢とかないのか?」
「夢は、父様の社長の座を完璧に引き継いで、白野株式会社をもっとよりよく――――」
「そうじゃねぇよ、俺が聞いてんのはお前の夢だ。会社とかは関係ねぇ。お前が求める、お前が欲しいと思う。お前の望みはなんだ?」

 真剣な表情で聞いている彼に、曄途は自身の部屋にある、一つのカメラを思い出した。
 今では部屋の置物となっている安いカメラ。それは、小さい頃父が誕生日に送ってくれたもの。

 昔は色んな所に出かけ、カメラの納めていた。
 様々なお花や綺麗な青空。雨の後の公園や、家族で撮った写真まで。沢山の思い出と、綺麗な光景が納められたカメラ。

 口を強く結び、曄途はお弁当を握り瞳を揺らした。

「夢は、ありましたよ。今はもう叶えることが出来ない、消えた夢ですが……」
「夢は消えることあるのか?」

 当たり前のように言う優輝に、三人の視線が集まる。

「夢は、本人が諦めなければ消えないだろ」
「そんなことはない。夢は、消えてしまいます。周りの環境、生活。自分の気持ちより周りが優先されるこの世の中。自分の気持ちだけではどうにもできないんですよ」

 周りから勝手に期待され、勝手に次期社長と言われ。執事とメイドにはスケジュール管理をされ、自由の時間はなかった。

 勝手に期待され始めたのは、曄途の個性の花が白い薔薇だという事がわかってから。

 薔薇はこの世に三人しか出す事が出来ず、その中でも白は天使の贈り物とも言われていた。

 それもあり、曄途は大事に大事に育て上げられ、今の彼が出来上がった。
 様々な色に染まれるようにマナーを学び、天使と言う名前に負けないように容姿を磨き、完璧な人物を作り出した。

 だが、彼も人間。天使でもなければ、白い薔薇そのものでもない。
 ただの人間なため感情があり、夢があり、自由がある。それを全て封じられ生活して来た曄途には、優輝の言葉が理解出来なかった。