女子の団体戦はドッチボール。グランドと体育館の二か所で行われる。
一華と真理は同じチーム。体育館で行う為、壁の方で準備運動をしていた。
「絶対に勝とうね」
「当たり前よ! 運動部の底力、見せつけてやるわよ!」
「私は運動部ではないけどね…………」
二人は笑い合い、気合を込めた。
男性陣は女子の団体戦が終わるまでは待機になる為、体育館やグランドの端で自身のチームの応援をすることになる。
熱気あふれる体育館、首に赤いハチマキを垂れさせ、上着を着ている優輝が一人でドア付近の壁に寄りかかり見ていた。
「…………ん?」
「…………あ」
ドア付近に立っていたため、顔だけを中に覗かせている曄途を一番最初に発見、お互いの目が合った。
「そんな所で何してんだ?」
「…………いえ、こちらの方が同じクラスの方がいますので、見に来たのですよ」
姿勢を正し、優輝の隣に立ち中央を見る。笑みを張り付けている彼に、優輝は興味なさそうに返した。
お互い目を離し、チームに分かれ向かい合っている女子生徒を見た。
みんな本気の眼差しを浮かべ、絶対に勝ってやると言う気持ちが周りにいる人達にも伝わる。それは二人も同じで、肌に刺さるような感覚に身震い、優輝は雰囲気を楽しむように口角を上げた。
曄途は優輝が何を考えて行動しているのか、何を思って話しているのか全く理解しておらず、彼の事は不思議な先輩と思っていた。
そんな不思議な先輩が隣に立ち、楽し気に団体競技を見てる。
自分が彼の隣に立って良かったか、邪魔じゃないか。
いつもは一華や真理がいるため気にならないが、今は二人。気になって仕方がない。
横目でちらちらと見ていると、視線が煩わしく、優輝は口を引き攣らせ隣を見た。
「なんだ?」
「…………なんでもありません」
ニコッと、曄途はいつもの笑顔で返し、コートを見る。
優輝も必要以上に聞くのはめんどくさく、視線をコートに戻した。
ちょうど試合が始まるらしく、中央に背の高い女子二人と教師一人がボールを持って立っている。口には笛を咥えており、二人の女子に準備が出来たか目で確認をとっていた。
準備は出来たと、お互い頷き合い、開始の笛が鳴る。
ピー!!!
上へと上がったボールに二人の女子が飛びつき手を伸ばす。最初に届いた方がボールを自身のチームに放った。
「わっ! よーし!!」
先にボールをキャッチしたのは真理。一華は外野で待機しており、いつボールが飛んできても大丈夫なようにしていた。
試合が始まり、応援にも熱がこもる。それぞれ熱気が溢れ、応援の声が廊下にまで響き渡っていた。
そんな声が響き渡る中、二人は一切声を出すことなくコートを見続ける。
「あの、応援はしないのですか?」
「なんで?」
「先輩でしたら蝶赤先輩の応援をしそうだなと思いまして」
「今回は俺とあいつは別のチームだ。応援する訳にはいかねぇだろうが」
「そういう所は気にするのですか?」
「当たり前。あいつが困る事は極力しないようにしている」
腕を組み欠伸を零す。外野で頑張って役に立とうと走っている彼女を見てほくそ笑んだ。
「…………いいですね。先輩」
「何がだ」
「自由で」
言うと曄途は顔を俯かせ、拳を握った。
なにかに我慢しているような、耐えているような雰囲気を纏っている。
普通ではない彼に、優輝は首を傾げ当たり前というように言い放った。
「なら、お前も自由になればいいだろ」
「無理ですよ。僕にはその権利はない。僕は、ただ敷かれたレールを歩くだけなんです。それしか、道はないんです」
俯かせた顔をコートに向け、無の表情を浮かべた、
グレーの瞳は黒ずみ、握られていた拳は緩まる。
「…………そうか。お前の事は俺にはわからん。だが、人を羨むばかりでは変わる事は出来ん。羨ましいと思う感情は大事だが、それをバネにしないのなら、それはただの嫉妬になるからな」
「そうですね、肝に銘じます」
胸に手を添え、仮面のような笑みを張り付け優輝との会話を終らせた。
二人の空間だけ静かになり、どちらも応援をしようともしない。ただひたすらに、コートで頑張っている一華達を見ているだけだった。
「…………なぁ」
「なんですか?」
「お前、好きな食いもんとかないのか?」
「え、いきなりどうしたんですか?」
なんの前触れもなく問いかけられた質問に困惑し、思わず笑みを消す。
驚きすぎて目をキョトンとしている彼の顔がおかしく、優輝はくすくすと笑った。
「いや、何となくだ。あんのかなぁって、気になっただけ」
「は、はぁ……。えっと、好きな食べ物……ですね。なんだろう……」
真剣に考えこんでしまった曄途を見て、優輝は顔を引き攣らせる。
まさかここまで悩むとは思っておらず、頬をポリポリ掻いた。
「別になかったらなかったで……」
話を切り上げようとした優輝の言葉を遮り、曄途は「あ」と思い出したような声を漏らした。
「好きというか、よく食べるのはグミですね。特に梨のグミ。美味しいですよ」
「……………はぃ?」
目をキラキラさせ、曄途は言い切った。
どこの会社のグミはこうだとか、ここの会社のグミはダメとか。何故かいきなりグミについて語り出してしまった。
話についていけなくなった優輝は、どう返せばいいのか困り相槌を打つのみ。
グミについて楽しく語っている彼を見て、優輝は最初困っていたが、徐々に口角が上がり楽しげ笑いながら聞き始める。
つい語り過ぎてしまった事に一瞬口を閉ざし、隣に立つ優輝を見上げた。
いきなり語るのをやめてしまった彼に優輝は首を捻りきょとんと目を丸くする。
「どうした?」
「い、いえ。僕ばかり話してしまったので……。気を遣わせてしまったと思い…………」
俯き、そわそわと言う曄途に、優輝はまた笑う。その時、優輝の耳に付けられていたリング状のピアスがきらりと光を反射した。
「俺は普通に楽しかったぞ。それに、お前の事を少し知る事が出来た。あんな質問でもここまで会話を広げられるのはすげぇよ。俺には難しい」
にこっと笑った彼に、曄途は嬉しそうに「そうですか」と返した。
この後は試合を見ながら軽く雑談をし、体育大会午前の部を楽しんだ。
一華と真理は同じチーム。体育館で行う為、壁の方で準備運動をしていた。
「絶対に勝とうね」
「当たり前よ! 運動部の底力、見せつけてやるわよ!」
「私は運動部ではないけどね…………」
二人は笑い合い、気合を込めた。
男性陣は女子の団体戦が終わるまでは待機になる為、体育館やグランドの端で自身のチームの応援をすることになる。
熱気あふれる体育館、首に赤いハチマキを垂れさせ、上着を着ている優輝が一人でドア付近の壁に寄りかかり見ていた。
「…………ん?」
「…………あ」
ドア付近に立っていたため、顔だけを中に覗かせている曄途を一番最初に発見、お互いの目が合った。
「そんな所で何してんだ?」
「…………いえ、こちらの方が同じクラスの方がいますので、見に来たのですよ」
姿勢を正し、優輝の隣に立ち中央を見る。笑みを張り付けている彼に、優輝は興味なさそうに返した。
お互い目を離し、チームに分かれ向かい合っている女子生徒を見た。
みんな本気の眼差しを浮かべ、絶対に勝ってやると言う気持ちが周りにいる人達にも伝わる。それは二人も同じで、肌に刺さるような感覚に身震い、優輝は雰囲気を楽しむように口角を上げた。
曄途は優輝が何を考えて行動しているのか、何を思って話しているのか全く理解しておらず、彼の事は不思議な先輩と思っていた。
そんな不思議な先輩が隣に立ち、楽し気に団体競技を見てる。
自分が彼の隣に立って良かったか、邪魔じゃないか。
いつもは一華や真理がいるため気にならないが、今は二人。気になって仕方がない。
横目でちらちらと見ていると、視線が煩わしく、優輝は口を引き攣らせ隣を見た。
「なんだ?」
「…………なんでもありません」
ニコッと、曄途はいつもの笑顔で返し、コートを見る。
優輝も必要以上に聞くのはめんどくさく、視線をコートに戻した。
ちょうど試合が始まるらしく、中央に背の高い女子二人と教師一人がボールを持って立っている。口には笛を咥えており、二人の女子に準備が出来たか目で確認をとっていた。
準備は出来たと、お互い頷き合い、開始の笛が鳴る。
ピー!!!
上へと上がったボールに二人の女子が飛びつき手を伸ばす。最初に届いた方がボールを自身のチームに放った。
「わっ! よーし!!」
先にボールをキャッチしたのは真理。一華は外野で待機しており、いつボールが飛んできても大丈夫なようにしていた。
試合が始まり、応援にも熱がこもる。それぞれ熱気が溢れ、応援の声が廊下にまで響き渡っていた。
そんな声が響き渡る中、二人は一切声を出すことなくコートを見続ける。
「あの、応援はしないのですか?」
「なんで?」
「先輩でしたら蝶赤先輩の応援をしそうだなと思いまして」
「今回は俺とあいつは別のチームだ。応援する訳にはいかねぇだろうが」
「そういう所は気にするのですか?」
「当たり前。あいつが困る事は極力しないようにしている」
腕を組み欠伸を零す。外野で頑張って役に立とうと走っている彼女を見てほくそ笑んだ。
「…………いいですね。先輩」
「何がだ」
「自由で」
言うと曄途は顔を俯かせ、拳を握った。
なにかに我慢しているような、耐えているような雰囲気を纏っている。
普通ではない彼に、優輝は首を傾げ当たり前というように言い放った。
「なら、お前も自由になればいいだろ」
「無理ですよ。僕にはその権利はない。僕は、ただ敷かれたレールを歩くだけなんです。それしか、道はないんです」
俯かせた顔をコートに向け、無の表情を浮かべた、
グレーの瞳は黒ずみ、握られていた拳は緩まる。
「…………そうか。お前の事は俺にはわからん。だが、人を羨むばかりでは変わる事は出来ん。羨ましいと思う感情は大事だが、それをバネにしないのなら、それはただの嫉妬になるからな」
「そうですね、肝に銘じます」
胸に手を添え、仮面のような笑みを張り付け優輝との会話を終らせた。
二人の空間だけ静かになり、どちらも応援をしようともしない。ただひたすらに、コートで頑張っている一華達を見ているだけだった。
「…………なぁ」
「なんですか?」
「お前、好きな食いもんとかないのか?」
「え、いきなりどうしたんですか?」
なんの前触れもなく問いかけられた質問に困惑し、思わず笑みを消す。
驚きすぎて目をキョトンとしている彼の顔がおかしく、優輝はくすくすと笑った。
「いや、何となくだ。あんのかなぁって、気になっただけ」
「は、はぁ……。えっと、好きな食べ物……ですね。なんだろう……」
真剣に考えこんでしまった曄途を見て、優輝は顔を引き攣らせる。
まさかここまで悩むとは思っておらず、頬をポリポリ掻いた。
「別になかったらなかったで……」
話を切り上げようとした優輝の言葉を遮り、曄途は「あ」と思い出したような声を漏らした。
「好きというか、よく食べるのはグミですね。特に梨のグミ。美味しいですよ」
「……………はぃ?」
目をキラキラさせ、曄途は言い切った。
どこの会社のグミはこうだとか、ここの会社のグミはダメとか。何故かいきなりグミについて語り出してしまった。
話についていけなくなった優輝は、どう返せばいいのか困り相槌を打つのみ。
グミについて楽しく語っている彼を見て、優輝は最初困っていたが、徐々に口角が上がり楽しげ笑いながら聞き始める。
つい語り過ぎてしまった事に一瞬口を閉ざし、隣に立つ優輝を見上げた。
いきなり語るのをやめてしまった彼に優輝は首を捻りきょとんと目を丸くする。
「どうした?」
「い、いえ。僕ばかり話してしまったので……。気を遣わせてしまったと思い…………」
俯き、そわそわと言う曄途に、優輝はまた笑う。その時、優輝の耳に付けられていたリング状のピアスがきらりと光を反射した。
「俺は普通に楽しかったぞ。それに、お前の事を少し知る事が出来た。あんな質問でもここまで会話を広げられるのはすげぇよ。俺には難しい」
にこっと笑った彼に、曄途は嬉しそうに「そうですか」と返した。
この後は試合を見ながら軽く雑談をし、体育大会午前の部を楽しんだ。