練習を続けていると、あっという間に体育大会当日。
 太陽が花鳥高校の体育大会を応援するように燦々と輝き、青空にかかるようにカラフルな旗が風により揺れていた。


 パン、パパン


 体育大会の開催を祝うように、青空に花火が打ち上がる。
 音楽と共に響き渡り、花鳥高校の体育大会が開催された。

「絶対に赤組に勝つぞ!!」
「白組が今年こそは勝つぞ!!」

 グランド全体に響き渡るほどの気合の入った声が響き渡る。そんな中、優輝が欠伸をこぼし堂々とグランドから去ろうとしている姿があった。
 周りが学校指定のTシャツ一枚でいる中、優輝だけは長袖のジャージを着ている為目立っていた。

「黒華先輩、堂々とサボろうとしないでください」
「あ、バレた」
「バレます。一人だけこんな炎天下の中、長袖を着て人の流れに逆らっているのですから」

 優輝の姿を確認すると、一華が迷うことなく走り袖を掴み止めた。
 振り返り一華を見てニヤニヤと笑う優輝に、彼女は当たり前だろと胸を張って言い切った。

「それより、また汗が酷いですが、暑いのなら上着を脱ぎましょう? 熱中症になりますよ」
「大丈夫大丈夫。それより、最初はなんの競技だっけ?」

 話題を強制的に逸らした優輝に眉を顰めるが、一華は溜息をつき答えた。

「午前中は団体競技、午後から個人戦です。次は…………あ、ドッチボールだ」
「なら、俺には関係ないな。保健室で寝てくるわぁ」

 手を振りその場から去ろうとした優輝に手を伸ばし、ジャージを掴む。
 クイッと後ろに引っ張られ、彼は「お?」と疑問が洩れつつも素直に足を止めた。

「どうしたんだ?」
「確かに出番はないかもしれませんが、サボるのは駄目です」
「真面目だなぁ。まぁ、お前からの願いなら、叶えてやらんといかんな」

 振り向き、一華のジャージを掴んでいる手を優しく包み込み、彼女の顎に手を添え目線を合わせた。
 真紅の瞳と目が合い、思わず顔に熱が集まる。気温の暑さだけでは無い体温の上昇に戸惑い、その場から動けない。目を逸らすことすら出来ず、彼の瞳に魅入られた。

「一華、団体戦始まっ──お邪魔しました!!」
「あ、お邪魔じゃないから行かないで!!」

 真理が一華を呼びに来たが、二人の距離の近さに顔を覆いUターンした。
 パッと距離を取り、一華は赤面した顔を手で隠し優輝から離れ真理へと慌てて走る。

 彼女の姿をやれやれと肩をすくめながら眺め、頭をガリガリと掻きグランドの方向に歩き出した。

「しゃーねぇな」

 グランドに戻るため歩いていると、優輝と義姉弟である侭朝花が声をかけた。

「優輝、さすがに肌を隠すためとはいえ、不自然じゃないかしら? この気温で長袖のジャージ」
「他に隠しようがねぇだろ」
「ファンデを貸してあげるわよ?」
「俺の色に合わねぇよ。それに、汗でどうせ取れる」
「それもそうね。結局は隠しきれないでしょう。塩分と水分はしっかりととって、体をできる限り冷やしなさい。倒れるわよ」
「へいへい」

 教師も今日は動きやすい服装をしていた。
 朝花は長ズボンにTシャツ。首には赤い笛が垂れ下がっている。
 長い茶髪は後ろで一本にまとめられており、運動をするにはベストコーデだった。

「今日は大いに楽しみなさい」
「それは無理だろ。俺は一華達以外と楽しむ気はない。昔のような経験をするのだけはごめんだからな」

 吐き捨てるように言うと、優輝は再度歩き今度こそグランドへと戻った。

 最後に残された彼の言葉が朝花に過去を思い出させる。
 いつも、どこか必ず傷をつけ学校から帰ってくる彼の姿。何かを聞いても『大丈夫』としか言わない。
 何度も聞くわけにはいかないと、朝花は伸ばしかけた手を戻す。

 今も、自然と優輝に伸びた手が、なにも掴むことせず下ろされた。
 去って行く優輝の後姿を見て、目を伏せ顔を俯かせる。締め付けられているように感じる胸を押さえ、蘇った過去を消し去ろうと頭を振った。

「無理だけはしないのよ、昔のようになってはいけない」

 その場に立ち尽くしている朝花に、紫の髪をなびかせ近づいていく紫炎陽の姿。声をかけようと口を開けるが、彼女の様子に声をかけられず、言葉を発することなく閉じた。

 彼女を見つめていると、視線に気づき振り返る朝花。陽の姿を見て笑みを浮かべた。

「紫炎先生!」
「あ、あぁ、侭先生。あんなところで立ちつくしてどうしたのですか?」

 駆け寄ってきた朝花に戸惑いつつも気を取り直し、冷静を装い陽は問いかけた。

「ちょっと、生徒達の様子を確認しようかなと思いまして。皆、楽しそうに準備をしているみたいで安心です」
「そのようですね、私も安心です」

 笑い声が響き渡るグランドを眺め、二人はお互い笑いあった。