全学年の練習、チーム分けがされそれぞれ、団体競技の練習をしていた。

 団体戦は男女で違い、男子が騎馬戦。女子はドッチボール。
 個人競技はリレー。

 騎馬戦の練習をしている時、女子は休憩の時間。一華と真理もペットボトル片手に休憩しながら練習している男子生徒を見ていた。

「騎馬戦って危険だけど、それでも続けているこの学校すごいよね」
「危険だけど、今まで大きな怪我をしていないのと、一番の見せ場と言われているからそう簡単にやめられないんじゃないかな」

 二人で話しながら休憩していると、ここに居るはずのない二人が一華達に近付いた。

「おーおー、外から見ると結構いいな。あれはやるより見ていたいわ」

 声が聞こえた方に振り向くと、団体戦の練習をしているはずの優輝が曄途の首根っこを掴み、引きずりながら笑顔で騎馬戦を見ていた。

「なんで黒華先輩と白野君がいるんですか?」
「俺は単純にめんどくさいから。こいつはチームに入れていなかったから」
「え、でも騎馬戦は四人一組……。ぴったりで考えられているんじゃ?」
「それはねぇよ。男子の数が四人で必ず割り切れる訳じゃねぇし、余ったもんは補欠だ。俺は自ら補欠を選んだが、こいつは知らん」

 引きずっていた曄途を前に放り投げ、優輝は長そでのジャージを着ながら汗を拭き「あちぃ」と呟いていた。

「僕にこんな仕打ちをするなんて…………。本当に貴方は何様ですか?」
「俺様」
「…………どの立場の方ですか…………」

 呆れながら曄途が立ち上がると、真理が近づき心配そうにタオルを渡した。

「顔に泥が付いているよ。これで拭いて」
「あ、ありがとうございます」

 すぐに笑みを浮かべ素直に受け取り、顔を拭く。
 二人の様子を微笑ましそうに見ている一華だったが、隣に立っている優輝の姿に疑問を持ち首を傾げた。

「黒華先輩、なんでジャージを着ているんですか? 暑いのなら脱げばいいと思うのですが…………」
「あぁ、これか。なんだ? 俺の美しい肌が見たいのか?」
「そういう訳ではないです」
「そんな、バッサリと…………」

 一瞬の迷いなく断られ、優輝は肩を落とした。

「あの、眩暈とか、頭痛とか大丈夫ですか? 今日は気温が上がっておりますし、汗も流れています。熱中症など…………」
「あぁ、大丈夫だぞ。気にするな」

 ケラケラ笑う優輝の表情を見て、まだ気になってはいるがこれ以上聞いても答えてくれないかなと考え、一華は諦めた。
 それでも気になり、水分補給しながら横目で彼を見る。

 頬は微かに赤く、汗も額だけでなく首筋に流れ落ちていた。
 表情は平気そうに見えるが、このまま外にいては熱中症になってしまう。

「あの、これからまだ練習はありますか?」
「俺は補欠だからねぇぞ。俺と共に行動したい奴とかもいないだろうしな」

 平然と言いのける彼。じぃっと一華が見ていると、優輝がきょとんとした顔を浮かべ、「なんだ?」と聞いた。
 一華は何でもないと答え、顔を逸らし、練習している男子生徒を見る。
 数回瞬きした後、優輝も顔を逸らし騎馬戦の様子を見始めた。

 顔を逸らした彼を横目で再度見る一華。

 今の彼が何を考えているのか、何を思っての言葉だったのか。今の一華にはわからない。それ以外も、彼について知らないことが多い一華は、なぜ優輝が自分に好意を向けてくれているのか理解できない。

 優輝と一曄の出会いは学校裏にある花壇。いきなり彼が一華に告白をしたことが始まりだった。
 理由は詳しく教えてもらえず、ただ一言『惚れた』だけ。

 それだけでは理解も納得も出来ず、一華は今だ彼からの告白を断り続けている。

「そういや、あいつは補欠なのか?」
「え? そういえば…………」

 優輝がぼそっと言うと、三人の男子が誰かを探している姿を見つけた。

「おーい、白野!!!」

 曄途を呼んでいる声が聞こえ、真理と話している曄途はグランドを見た。
 やっと彼を見つけたチームメイトは、汗を拭きながら近づいて来て、腰に手を当てめんどくさそうな顔をする。

「おいおい、白野。まだ練習中だぞ。なに勝手に休んでいるんだよ」
「あ、すいません。ご迷惑をおかけしました」
「い、いや、別にいいけど…………」

 笑顔で謝罪されたチームメイトは、居心地悪そうに目を逸らし「早く行こうぜ」と急かした。
 タオルを肩にかけ、着いて行こうとした曄途のグレーの瞳が一瞬、優輝に向けらた。

 目が合い優輝はきょとんと目を丸くするが、そのまま何も言わない。曄途もすぐに目を逸らし、その場から居なくなる。
 チームメイトと馴染めていない彼を見て、真理と一華は心配そうに眉を下げ、グランドに戻る彼の背中を見送った。

「馴染めてないのかな」
「うん、そうみたい」

 不安げに寄り添う二人の傍らで、優輝は腕を組み何かを考える。
 汗が頬を伝い落ち、顔も赤い。だが、そんなことは一切気にせず、ただグランドに戻った彼の姿を目で追い続けた。