放課後になり、一華が真理を部活へと見送り校門に向かっていると、見覚えのある黒髪が目に入る。
「あ、黒華先輩」
「おっ、良かった良かった。帰ってなかったみたいだな」
「いつから待っていたんですか?」
「今さっき」
今さっきと言っている彼の首筋には、汗が流れており、頬は赤い。今さっき校門にたどり着いた人が、ここまで汗を流すなんてことはない。
一華は彼の様子に浅く息を吐き、鞄から一つの飴を取り出した。
「これを」
「ん? 飴?」
塩分補給と書いてある一つの飴を渡され、優輝は反射的に受け取る。
「黒華先輩」
「ん? なんだ?」
「暑くないですか? 大丈夫です?」
一華からの心配の声に、きょとんとした顔を浮かべた優輝は、なんともないような笑みへと切り替えた。
「大丈夫だぞ」
「…………そうですか」
微笑みかけられた一華は何も言えなくなり、納得するしかない。
何か言いたげな一華の頭を撫で、優輝は校門を出た。
「んじゃ、帰ろうぜ」
「は、はい」
二人で帰る事が習慣付いた一華は、優輝の言葉に一切疑問を抱くことなく歩き出す。だが、校門から一歩、足を前に出すと、一台の黒いワゴン車が勢いよく走ってきていた。
いち早く気づいた優輝が咄嗟に一華の腕を掴み自身へ引き寄せる。ぎゅっと抱きしめられ、彼の体温がじかに伝わり思わず心臓が高鳴った。
一華の反応など気づかず、優輝は突っ込んできたワゴン車を睨みつけた。
「ふざけるなよ、怪我したらどうしてくれんだ」
突っ込んできたワゴン車は校門まで止まると、ドアが開かれた。
中からは高身長の燕尾服を身に纏った一人の男性。年齢的には六十少し上、青色の髪に白髪が混じっていた。
優輝達を一瞬、横目で見るがすぐに目を逸らし腕時計を見た。
その反応に優輝は怒りで青筋を立て、一華が諫める。すると、校舎から見覚えのある人物が歩いて来た。
「あ、白野君」
「あ? あ、本当だ」
二人は自身の態勢を忘れ、歩いて来る曄途を見た。
周りの人は曄途を遠巻きに見ており、誰も話しかけようとはしない。
曄途は黒いワゴン車を確認すると、一瞬眉を顰め、鞄を肩にかけ直した。
「じいや」
「待っておりましたよ、曄途様。さぁ、こちらに」
「ん、あっ」
車を避けた体勢で固まっている二人に気づき、じぃっと見下ろす曄途。なぜ見下ろされているのか疑問を抱いていると、一華がやっと優輝に抱きしめられている態勢だったことを思い出した。
状況に気づき、顔を真っ赤にした一華は、優輝の顔を思いっきり押した。
「離してください!!!」
「ギブギブギブ!!!!」
遠慮のない一華からの攻撃に、優輝は素直に手を離し立ち上がる。頬を撫でながら、舌打ちを零した。
「えっと、こ、こんにちは、白野君」
「こんにちは、蝶赤先輩。何をしているんですか?」
「え、い、いやぁ…………」
何とかごまかそうと目を泳がせていると、優輝が曄途の質問を無視し、黒塗りのワゴン車を指さした。
「あれ、このワゴン車、お前の?」
「…………そう、ですが。どうしまいたか?」
「ふーん。俺達、その車に轢かれそうになったんだけど」
「え? 蝶赤先輩怪我はありませんか!?」
文句を言った優輝ではなく、隣に立っていた一華へと近づき曄途は心配の声をかけた。
「おい、俺は無視か?」
「あ、いえ。黒華先輩は、その、大丈夫そうに見えたので」
「こいつも無傷だろ。俺が庇ったから」
優輝の言葉を疑うように、一華をジィっと見つめる曄途は、彼が言っていることが本当だとわかり、安堵の息を漏らした。
「良かった」
「心配してくれてありがとう。それより、待っているよ?」
曄途の後ろを覗き込むと、ドアを開け待っている男性。後ろを振り向くと、曄途は一瞬悲し気に眉を下げ口を結んだ。
彼の表情を見逃さなかった優輝は深紅の瞳を細め、男性を見た。
「そ、それじゃ、また…………」
儚い笑みを浮かべいぇをふり、二人から離れ車に乗車。そのまま音を立て車が動き出し、走り去ってしまった。
彼の表情が気になる優輝は、走り去る車が見えなくなるまで見続け、一華も違和感を感じ首を傾げた。
「なんか、嫌そうでしたね」
「そうだな。まぁ、俺達には関係ねぇよ。早く帰るぞ」
歩き出した優輝に遅れ、一華も歩き出した。だが、目はまだ見えなくなった黒いワゴン車に向けられており、再度名前を呼ばれやっと目を離した。
「白野君、なにか我慢しているように見えたのは私だけでしょうか?」
「俺には我慢と言うより、諦めているような気がしたけどな」
「諦めている?」
隣を歩く優輝を見上げ、一華がオウム返しのように問いかけた。
「あぁ。現状を受け入れ、変えようとしない。お前の言う我慢もあながち間違えてはいないとは思うが……。何を考えてところで俺達には関係ねぇよ」
「そうでしょうか…………」
後ろを振り向くが、もう何も見えない。ただの通学路。
不安げに眉を顰めるが、今何を考えたところで何もできないとため息を吐き諦めた。
「ところで一華」
「はい?」
「この後暇ならどっか行こうぜぇ。行きたいところとかねぇ?」
「気楽すぎません?」
優輝の言葉に呆れつつも、一華は鞄を持ち直し「仕方がありませんね」と一緒に買い物をした後、帰宅した。
「あ、黒華先輩」
「おっ、良かった良かった。帰ってなかったみたいだな」
「いつから待っていたんですか?」
「今さっき」
今さっきと言っている彼の首筋には、汗が流れており、頬は赤い。今さっき校門にたどり着いた人が、ここまで汗を流すなんてことはない。
一華は彼の様子に浅く息を吐き、鞄から一つの飴を取り出した。
「これを」
「ん? 飴?」
塩分補給と書いてある一つの飴を渡され、優輝は反射的に受け取る。
「黒華先輩」
「ん? なんだ?」
「暑くないですか? 大丈夫です?」
一華からの心配の声に、きょとんとした顔を浮かべた優輝は、なんともないような笑みへと切り替えた。
「大丈夫だぞ」
「…………そうですか」
微笑みかけられた一華は何も言えなくなり、納得するしかない。
何か言いたげな一華の頭を撫で、優輝は校門を出た。
「んじゃ、帰ろうぜ」
「は、はい」
二人で帰る事が習慣付いた一華は、優輝の言葉に一切疑問を抱くことなく歩き出す。だが、校門から一歩、足を前に出すと、一台の黒いワゴン車が勢いよく走ってきていた。
いち早く気づいた優輝が咄嗟に一華の腕を掴み自身へ引き寄せる。ぎゅっと抱きしめられ、彼の体温がじかに伝わり思わず心臓が高鳴った。
一華の反応など気づかず、優輝は突っ込んできたワゴン車を睨みつけた。
「ふざけるなよ、怪我したらどうしてくれんだ」
突っ込んできたワゴン車は校門まで止まると、ドアが開かれた。
中からは高身長の燕尾服を身に纏った一人の男性。年齢的には六十少し上、青色の髪に白髪が混じっていた。
優輝達を一瞬、横目で見るがすぐに目を逸らし腕時計を見た。
その反応に優輝は怒りで青筋を立て、一華が諫める。すると、校舎から見覚えのある人物が歩いて来た。
「あ、白野君」
「あ? あ、本当だ」
二人は自身の態勢を忘れ、歩いて来る曄途を見た。
周りの人は曄途を遠巻きに見ており、誰も話しかけようとはしない。
曄途は黒いワゴン車を確認すると、一瞬眉を顰め、鞄を肩にかけ直した。
「じいや」
「待っておりましたよ、曄途様。さぁ、こちらに」
「ん、あっ」
車を避けた体勢で固まっている二人に気づき、じぃっと見下ろす曄途。なぜ見下ろされているのか疑問を抱いていると、一華がやっと優輝に抱きしめられている態勢だったことを思い出した。
状況に気づき、顔を真っ赤にした一華は、優輝の顔を思いっきり押した。
「離してください!!!」
「ギブギブギブ!!!!」
遠慮のない一華からの攻撃に、優輝は素直に手を離し立ち上がる。頬を撫でながら、舌打ちを零した。
「えっと、こ、こんにちは、白野君」
「こんにちは、蝶赤先輩。何をしているんですか?」
「え、い、いやぁ…………」
何とかごまかそうと目を泳がせていると、優輝が曄途の質問を無視し、黒塗りのワゴン車を指さした。
「あれ、このワゴン車、お前の?」
「…………そう、ですが。どうしまいたか?」
「ふーん。俺達、その車に轢かれそうになったんだけど」
「え? 蝶赤先輩怪我はありませんか!?」
文句を言った優輝ではなく、隣に立っていた一華へと近づき曄途は心配の声をかけた。
「おい、俺は無視か?」
「あ、いえ。黒華先輩は、その、大丈夫そうに見えたので」
「こいつも無傷だろ。俺が庇ったから」
優輝の言葉を疑うように、一華をジィっと見つめる曄途は、彼が言っていることが本当だとわかり、安堵の息を漏らした。
「良かった」
「心配してくれてありがとう。それより、待っているよ?」
曄途の後ろを覗き込むと、ドアを開け待っている男性。後ろを振り向くと、曄途は一瞬悲し気に眉を下げ口を結んだ。
彼の表情を見逃さなかった優輝は深紅の瞳を細め、男性を見た。
「そ、それじゃ、また…………」
儚い笑みを浮かべいぇをふり、二人から離れ車に乗車。そのまま音を立て車が動き出し、走り去ってしまった。
彼の表情が気になる優輝は、走り去る車が見えなくなるまで見続け、一華も違和感を感じ首を傾げた。
「なんか、嫌そうでしたね」
「そうだな。まぁ、俺達には関係ねぇよ。早く帰るぞ」
歩き出した優輝に遅れ、一華も歩き出した。だが、目はまだ見えなくなった黒いワゴン車に向けられており、再度名前を呼ばれやっと目を離した。
「白野君、なにか我慢しているように見えたのは私だけでしょうか?」
「俺には我慢と言うより、諦めているような気がしたけどな」
「諦めている?」
隣を歩く優輝を見上げ、一華がオウム返しのように問いかけた。
「あぁ。現状を受け入れ、変えようとしない。お前の言う我慢もあながち間違えてはいないとは思うが……。何を考えてところで俺達には関係ねぇよ」
「そうでしょうか…………」
後ろを振り向くが、もう何も見えない。ただの通学路。
不安げに眉を顰めるが、今何を考えたところで何もできないとため息を吐き諦めた。
「ところで一華」
「はい?」
「この後暇ならどっか行こうぜぇ。行きたいところとかねぇ?」
「気楽すぎません?」
優輝の言葉に呆れつつも、一華は鞄を持ち直し「仕方がありませんね」と一緒に買い物をした後、帰宅した。