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「ほら、朝日!早く起きてよ!」


目の前の女の子は私の姉でも妹でもない。
家庭用AI(人工知能)のリカだ。
見た目も声も人間そっくりだけど頭に一本アンテナのようなものがついている。
別に実用性はなく、ただ人間と区別をつけるためである。


「ん〜〜。でもどうせまだ五時とかなんでしょ〜?私まだ寝るから!」

「って毎日言われるから七時に起こしてるんだけど。」

「はぁっ!?7時!?うっそもうちょっと早く起こしてよ!」

「もう。なんなのよ朝日は〜。だったら自分で起きてよ〜。」

「6時!6時に起こして!」

「はいはい。」


リカがきちんとかけてくれた制服をハンガーから剥ぎ取って着替える。
マスクを外して息を止め、適当にバシャバシャと顔を洗い、髪の毛をとかして結ぶ。
お弁当をリカから受け取って急いで靴を履く。
ここまでの合計時間、5分。


「いってきまーす!」

「待って朝日!エアポンプの付け替え忘れてるよ!」

「うわあっぶな!」

リカが投げたマスクをキャッチ。
口元からカポッと外して付け替え、外したのをリカに投げる。


「ありがと!」

「はいはーい!いってらっしゃーい!」

私はドアを開けてシェルターの廊下を走り出した。



3XXV年、地球は止められなかった地球温暖化により、異常気象が相次いだ。

二酸化炭素が人間の致死量を超えてしまったため、常にエアポンプ(超小型酸素圧縮ボンベ)と共に生活する事を余儀なくされている生活。

日常的に発生する地震や台風、津波に土砂崩れなどの大災害によっていつ死ぬか分からないような状況下で、人類は生きていた。

二酸化炭素が致死量まであと少し、という頃、まだ人類にエアポンプは配られていなかった。そのせいで呼吸器官の弱い人や、体の弱い人、お年寄りなどはかなり二酸化炭素の影響をうけ、大勢が亡くなってしまった。

私の母もその一人。母は生まれつき病弱だった。
なのにも関わらずシングルマザーだった母は一生懸命私を育ててくれた。
その無理も祟ったのかもしれない。とにかく私は一人地球に残された。

当時小学校高学年だった私は、少しでも母を楽させようと家のことは全部一人でやっていて、比較的、自分で言うのもなんだけど、しっかりした子だった。
だから唯一の親戚だった叔母は、「まあ、大丈夫でしょ」と、一応戸籍上保護者となったものの私を引き取りはしなかった。

その代わりと言ってはなんだが、生活費や学校のお金や家賃は全部出してくれた。
お金は出してあげるから、あとは一人でやって、ということだ。

たださすがに唯一の親である母親を亡くした小学生に一人で暮らさせるのはと思ったのか私に一人のAIを与えた。それが、リカだ。

それから高校生になる現在まで、リカと私はずっと、二人暮らしをしてきた。
1番の親友であり、唯一の、家族だった。

日本中の人々が亡くなり、もう日本人も数十人のみ。
海面が上がったため沈んだ国は多く、日本もその一つ。
だから今世界中の人がここ、アメリカに集まっている。その人口約3万人。

世界はもともと人口が増えすぎだからと人口減少政策をとっていた。
そして減りすぎてしまったのでまた増やそうと言ったところで二酸化炭素がいよいよ多くなり、5分の一以上が亡くなった。そこに相次ぐ自然災害で、人口はここまで減ってしまった。

私の叔母も音信不通だし見当たらないのでおそらく亡くなったのだろう。
別にそんなに仲良かったわけでもないしほとんどの人が亡くなっていて私が生きてるのも奇跡なのだからそんなに今更心は痛まない。周りの人とも翻訳イヤホンで普通に会話ができるのでそこまで不便してないし。

一応シェルターの棟は国別なので周りの人は基本日本人。生活も大体棟の中で完結してる。
でも学校は全世界の人が一緒なのでちょっと遠いセンター棟まで歩かないといけない。簡単な検査が関所みたいに棟を通るごとにあって結構時間もかかる。なのに寝坊したから結構やばい。

でも思ったより間に合いそう。いつもは優梨(ゆうり)と一緒に行ってるけど、多分もう先に行っただろう。

学校に入ろうとした時、


「おはよー朝日!!」


後ろからバックに衝突される音とめちゃくちゃでっかい声。


「わぁっ、びっくりしたぁ!もう、毎朝やめてよ優梨(ゆうり)!」

「ふっふっふ〜、朝日は毎回驚かし甲斐がありますねぇ」

「っていうか私寝坊したから先行ったと思ってたんだけど」

「それはですねぇ、私も寝坊したからですね?気が合いますなあ」

「寝坊のタイミングがたまたま合ったのと気があうのはちがうでしょ!」

「そうだ昨日大丈夫だった〜?」

「ん?なんかあった?」

「いや地震あったじゃん」

「あーね。またあったんだ。私寝てたからわかんなかったわー。」

「え!?あの規模で気づかないの!?」

「いやもう慣れたし?地震そんなに怖くないし。どうせ防御バッチリのシェルターにいるし?」

「に、しても気づくでしょ…生物的な危険意識ゼロじゃん。」

「一回寝たらなかなか起きないのが取り柄なのでっ!」

「そこドヤるなって」

だって気づかないんだもん。寝てるんだから。
こんだけ何回も日常的に起きててなんで慣れないのかの方がびっくりだもん。

「いやそう、だから今日学校ないかと思って焦った〜!」

「なんかあったっけ?」

「今日から体育でバレーボールなんだよ!」

「あぁそうだっけ。でも言うてどうせ教室でやるし、ボールもあるかわかんないよ?ワンチャン風船バレーだし。」

「そうなんだよねぇ〜!体育館あるんだから貸しなさいよ!」

「集会所になってるよねあそこ。」

「よそでやれーーー!!」

「それな〜」