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どこに向かっているのかはわからないけど、とりあえず琉斗とsoraについていく。
しかし手に6冊も本を持って歩き回るのは少ししんどい。

『あ、まわるのに本邪魔ですよね!預かっておきます!』

さすがと言うかなんというか。言わずとも察してくれる。
怖いけど、なんか慣れてきた。しかしこれは慣れては危険な気がする…。
soraはなんと手があるらしい…。球体の両サイドが丸く開いて、中からアームが出てくる。

「なあ、俺のとっておきの場所があるんだけど見る?ってか見てくれない?」

ご機嫌そうに前を歩いていた琉斗がくるりと振り返って言った。後ろ歩きしてると転けるよ。

「んー。いいよー。」
「反応薄っ!ホント朝日は相変わらずしょっぱい…。」
「琉斗のテンションが高すぎなんだよ。」
『そうですよ琉斗』
「なんか soraやたらと朝日の味方するよなー。俺父親なのに。」
『私の父は琉斗ではなく間宮博士です!』

プイッとsoraは琉斗から顔を背ける。
機械なのに表情が変わる。かわいい。

「…ん?間宮博士って誰?」
『私の父です。』
「それは聞いたけど…。soraを作ったってこと?じゃあその人はどこに?」
「soraの父親ってだけだよなー。それ以上でもそれ以下でもない。ってか実質メンテナンスは俺がやってるんだから育ての親俺だしー!」
『別に本気出せば自動メンテナンスできますし〜』
「そう俺が設定したからな!?」

いつのまにか話が逸らされている。
なんか絶対隠してる。ホントこの人隠し事下手。
一見普通に話してるように見えるけど、目がオリンピックの水泳選手かよってくらい泳いでる。

琉斗はチラリと私を見てギクっとし、前を向いた。え、いやわかりやすっ。
しばらく角を曲がったりまっすぐ廊下を突き進んだりしたあと、施設の端っこにたどり着いた。
その間も琉斗はやたらと早口でペラペラと喋っている。誤魔化してるつもりなんだろうか。私は何も言っていないのに。soraでさえジト目で琉斗を見ている。

「あ、着いた。そうそう、見て!俺の渾身の【リュートパーク】っ‼︎」

ネーミングセンスないなとか思ったけど。両開きの大きな自動ドアが開くと思わず息を呑んだ。
某ネズミの国とUSN(ユニバーサルスタジオ日本)とトロロというお化けが有名なあの会社のパークと…と言った思いつく限りの娯楽施設を全部詰めたらこんな感じだろうか。ものすごい夢が詰まってるとしか言いようがないような場所。

「アトラクションもあるし、公園も水族館も動物園もプールも映画館もショッピングモールも、お店もアニメーションの街並み再現エリアもあるし、地球の世界遺産のエリアも、お土産屋さんもあるんだぜ!しかも映画は俺が作った‼︎ヤバくね⁉︎」

え、ヤバい。うん。やばいとか言うレベルじゃない。
…経費が気になるけどこの星にお金なんてなさそうだし,琉斗以外の人間もいないらしいから関係ないのだろう。

「え、これも全部映像投影?」
「いや、こっちは全部ちゃんと実物。作った。」
「マジで言ってる?」
「まー言ってもセンターと同じくプログラミングしただけだけどねー」

だから十分すごいって。
絶対高2じゃない。この人。チャラいくせして頭はいいとか…。なんなの…。

に、しても。本当にすごい。だって端がちっとも見えない。
…私、実はめっちゃテーマパーク好きなんだよね…。早く行きたい…っ!

「ふふふ。朝日さん顔がにやけてますぞ。早く行きたいんでしょ〜。」
「な、何よ。悪い⁉︎」
「はいはいムキにならないの。どうぞ好きなだけ回ってください。いゃ〜だってさぁ、せっかく頑張って作ったのに俺以外いないから誰も来ないしさぁ〜。正直つまんなかったんだよ。だから思いっきり楽しんで!」

…これを断れると思う?無理。もはやこっちから懇願するくらいだ。
私はいそいそと入り口にある案内板に駆けていく。

〔朝日さんようこそリュートパークへ!〕

わっ、案内板がしゃべった。
と思ったら案内板の後ろから小さなAIが出てきた。
円柱状のボディに半球の頭、手と足が生えているが正方形の板にハンドルがついたスクーターのようなものに乗っていて歩いてはいない。スーーっと滑るように移動している。
AIはこちらを見るとハンドルを握っていた手を離し、両手を広げて笑顔で言った。

〔おめでとうございます!あなたはこのリュートパークの初めての来場者です!〕

うわよくあるやつ〜。実際やってるの見たことないけど。
これはおそらく琉斗の趣味だろう。

「こんにちは。えっと…」
〔ボクはこのリュートパークを案内するために作られAI!リクと言います!〕
「こんにちはリク。じゃあ…早速案内お願いできる?」
〔もちのロンです!まずこのパークの基本情報から!〕

そう言って案内板を操作する。おしゃれで可愛らしいイラストが出てくる。エリアマップのようだ。

〔このリュートパークにはありとあらゆる娯楽施設が詰まっています!数々のアトラクション・公園・水族館・動物園・プール・温泉・映画館・ショッピングモール・植物園・レストランや売店・牧場・畑・アウトレット・美容室・スポーツエリア・スノーエリア、などなど!〕
「…多いね。」
〔はい!その中でもそれぞれエリアがさらに分かれていますので、全部回るには4年ほどかかる計算になっております!〕
「4年…?」
〔お買い物などにはリュートパーク限定の仮想通貨、『RYU』を使うようになっております!『RYU』はお客様が楽しむたびにそれに比例して貯まっていく形となっております!基本的には旧日本円と同じ計算となっておりまして、お客様に使いやすいようになっていると思われます!『RYU』はこちらのリストバンド『Blue tree』をかざすとお会計できるようになっております。『Blue tree』がお客様の心拍数などから楽しみ具合を読み取り、独自の判断でRYUを貯めていきます!『Blue tree』にはGPS機能やマップ機能、記録機能がついておりまして、迷子になっても安心かつ、いつどこのエリアを回ったかもわかるようになっております!〕

RYUって琉斗のリュウだよね〜…?Blue treeって青木だよね〜…?いやネーミングセンス本当にどこに置いてきたんだこの人…。

『いやほんとですよね〜私も何回も反対したんですよちゃんと考えろって。』
〔まーまだボクらの名前をまともにしてくれただけよかったですよー。どうします?『琉斗のお供1号』とかってなってたら…ひゃーゾッとしますねsoraさん。〕
『ほんとですねぇ〜。』
「お前ら俺へのディスり酷すぎない!?」
「まー琉斗ならやりかねない。」
「朝日まで…酷いぃ…。」
「リク〜こいつはいいから説明お願い〜。」

メソメソし始めた琉斗を適当にあしらってリクに続きを頼む。
こんなやつに構ってる暇はない。いや別にそんな忙しくないけど。

〔そーですね〜。えっとですね、あ、そう!レンタル品の説明です!スポーツの際の道具やトレーナーなどは各エリアに常備されておりますので自動着替えマシーンで着替えてくださいね!あとそれからパーク内の移動についてですが、空飛ぶ乗り物『AIR FLY』がございます。こちらはカート型となっておりまして、1人用と2人用がありますがちょっと操縦が難しいのでAIによる自動運転にすることも可能です。空を飛ぶ浮遊感を楽しみたいなら箒や絨毯も用意してますのでぜひ!〕

すごい…なにそれ夢みたい。

〔お土産は各ショップで購入が可能で、パーク内の食べ歩きフードについては店頭で買うこともスタッフに持って来させることも可能です!ちょっぴりセレブな気分を味わえますよ!お土産や手荷物はお付きの荷物持ちロボットがおりますのでそれに持たせていただければ結構です!ロボットは少し離れた位置をついてきますので遊ぶ際に気になることはございません。呼べばすぐに来ますのでご心配なさらず!〕

…なんか、至れり尽くせりすぎて信じられない。こんなに素晴らしいことってある?

〔さぁ朝日さん本日はどちらに行かれますか?〕
「えっ、どうしよう。」

記念すべき初のリュートパーク来園はどこにするか…結構大事。
でもどこも魅力的でとてもじゃないけどパッと決められない…。

『朝日さん、楽しそうなところ悪いんですが、もう時間なんですよ。』
「えぇっ!そんな!」
『また明日です。』
「そうだぜ朝日。今日回んなきゃ死ぬわけじゃあるまいし。ここが無くなるわけでもない。」
『なんなら行った方が死にますよ。』

めちゃくちゃ物騒だ。

「毎日毎日死にますよって言うのやめてよ〜…」
『事実を述べているのです。』
「急に淡々とするのもやめてー。」
「まあまあ、そんな駄々こねないの。」
「うっわ琉斗に宥められるとか最悪。」
「えー。」
『気持ちは分かります。」
「 soraまでヒドイ〜。」
『ほらっ!帰りなさい!』
「めっちゃお母さん感ある。」
「ちょっと琉斗早く行こう。私死んじゃうらしいから。」
「これが冗談じゃないのが怖いところ」
「はーやーくー。」
「へいへい。」

なんだかんだ言ってバイクはもう出してくれていた。あっという間に鏡について、またモノクロの極夜の世界に戻った。
部屋に戻ると本を読んだ。どれも私の好みですごく惹かれる。それでいて同じようなものに偏らず、あまり読んだことないようなジャンルもあって新しいジャンルが開拓されてすごく面白い。

読み終わるとちょうどお腹が空いていて、でも缶詰しかないことを思い出してげんなりする。無理矢理口に詰め込んで、さっさと食事を終わらせた。

布団に入る前に目覚まし時計をやっぱりセットして、明日のことが楽しみで、やっぱちょっと認めたくなくて。1人の部屋で1人で勝手に拗ねて寝た。