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次の日の朝。目覚まし時計の音が鳴る前に起きて、ちょっと昨日よりもにやけた顔が鏡に映っているのを誤魔化すように顔を洗い、ほんのちょっとだけ気を遣った服を着た。
届いたご飯は食べずにカバンに入れて、部屋を出る。
廊下を走って非常階段の扉を開け、階段を早足に駆け降りてドアを開けようとして失敗してガチャガチャとドアノブを何度も回し直して開け、でもまだ時間じゃなくてウロウロと廊下を歩き、時々止まって時計を見る。


6時。

鏡に手を触れ、テールに着く。
鏡の前では琉斗が待っていた。

「おはよ。」
「おお!朝日ホントに来たー!よかったぁ。あ、おはよ!」
『朝日さん、おはようございます。』

琉斗は朝からハイテンションだ。

「朝ごはん食った?」
「ううん。まだ。」
「じゃあ一緒に食べよ!朝はパン派だよな?」
「いやだからなんで知ってんのよ……。いや、んー。しばらく食べてないからご飯かなぁ。でもなぁ、パンもパンって言ったってって感じだし〜?」
「まあ、パンもご飯もいいって事で、どっちもちょっとずつにしよう。バイキングだ! sora、連絡お願い。」
『分かりました』
「あ、ちなみに俺の好物もずく酢と海ぶどうね。」
「渋っ!おじいちゃんみたいな。」
「嫌いな食べ物はゴーヤとピーマン。ってかゴーヤはピーマンの進化系。」
「今度は急に子供舌!」
『朝日さん言ってやってください。好き嫌いは良くないですもの!』
「そうだそうだー。」
「そこ団結されると勝てないからやめて〜。」

そんな他愛もない会話をしながらセンターに移動して、今度は【ダイニングルーム】と書かれた部屋に通される。

ビビットな感じの部屋で、丸いモチーフが多い。中央にある机には目を見張るほどの料理があって、どれも素晴らしい香りと色を出していた。

やばいホントに美味しそう。
思わずお腹が鳴って、聞こえてないかなとちょっと心配になった。
チラッと琉斗を見ると、

「すごいでしょ!めっちゃ美味しそうでしょ。」

と言う、聞こえてたのか聞こえてないのか分からないことを言われた。ま、聞こえてないっしょ。

とろろご飯が美味しい。出汁の優しいうまみと滑らかなとろろと香り高い醤油と炊き立てご飯。めっちゃいい。
あとふわっ、とろっ、なフレンチトーストが最高!主食ばっかり食べてる感じで罪悪感…。でもまあ、しばらくまともに食べてないんだし!多少はね!許されてもいいよね!

目玉焼きは白身がカリカリになってるやつだしソーセージはパリッパリに焼いてあるし、、ヨーグルトとマンゴーが入ったパイナップルのラッシーがあるし、お味噌汁の具はなすだし、細かいところなんだけど私の好みにバッチリ合っていて本当にこの人私の知り合いなのかなぁと思った。

「はー。うまー。機械も侮れないわー。」

パリッ、といい音のするクロワッサンを齧りながら幸せそうな顔で琉斗が言った。
バターの香りがこっちにまで漂う。

「機械作った本人が侮る訳ないでしょうね。自画自賛。」
「美味しいでしょ?」
「うん。」

でもちょっと気になることがある。

「ねえ、こんなにあるけど全部食べれないでしょ。捨てるの?」
「ん?いや。もったいないじゃん。フードロスってやつだし。捨てないよ。っていうかもともとないよ。」

は?じゃあ私が食べてるこのハッシュドポテトはなんなの?

「何言ってんの?」
「全部映像投影で出てるだけなんだよね。で、食べたいなーと思って、トングとか手に取ると、その人が取る分だけ作られて、そこで初めてリアルで出てくる。匂いとかも作ってる。」

え。なんか夢壊された気分…。にしてもリアル〜。最新技術すごい。

「なんか裏切られたショックと感心で顔が歪んでるよ。」
「は?乙女に向かって顔が歪んでるとは何よ!デリカシーのない。」
「そしてその反応はドンピシャでもあることを示している。」
「………。」

ふんっ。

「ごちそうさまでした。」
そう言うと映像投影がスッと消えていった。わぁ。ほんとになかったんだ…。
ご飯を食べ終わって、センターの中を見学することになった。

なんか、とりあえず広い。
中央吹き抜けでデパートみたいな感じだけどデパートより広くってスペースが贅沢に使われている。
ところどころに観葉植物が置かれていて、緑と内装に使われた木がとっても綺麗に映えていておしゃれを極めてる…。

ホテルみたいな感じでもあるけど一応ちゃんと住んでるんだなーと言う生活感はある。
精密機械みたいなのたくさんあるらしく色んなところでロボットが働いているけれどもなぜか一度も私は機械を見つけられなかった。隠してるらしいけど隠すのがうますぎる。

ずっとまっすぐ歩いていた琉斗が急に曲がって一つの部屋に入った。
慌てて追いかけるとドアの横に書いてあった文字は【ジム】だった。

おしゃれなのは言うまでもないんですが、ピッカピカの最新機器が揃っていて超かっこいい。

「朝日ー、ここ入って。」
「え、なに。なんか絶対怪しいんだけど。」
「大丈夫だ問題ない。」
「略して大問題…。」
「そこ略さないで!」
「わかったわかった入るから。」

円柱状の黒い物体があってそこに入れと言われたら…ちょっと怖いよね。
近づくとウィンと言う音を立てて円柱の側面が少しスライドして開いた。
恐る恐る入るとまたウィンと音を立てて側面が閉まった。

真っ暗で正直言って超こわい。

ピピッ

円柱の内側から青いレーザーがたくさん出てきて身体に突き刺さる。いや、全然痛いとかないよ?検査されてる感じ?

プシューーーーーー

「うわっ!」

急に大きな音と共に側面から白いものが噴射された。
なになになになになに、琉斗のやつ私にドッキリでも仕掛けてんの!?

「お疲れ様でしたー♪」

やけにテンションの高い声が円柱の上から聞こえた。
壁が開いたので外の光にクラクラしながら外に出る。

「りゅうと〜〜〜〜〜!!!!」
「いやいやいやいやいや違うんです」
「何が違うんですやねん!」
「見て!自分の服見て!!」

言われて見てみると、私服からスポーツウェアに変わっていた。今の一瞬で!?

「どういうこと!?」
「なんか簡単に言うと超高温状態にして一回衣服を溶かして、周りからスポーツウェアの素材を吹き付けて冷却して固めて形にして、元着てた服はまた戻して…って言うのをやった感じ?結果的にプラマイゼロだから何も温度変化は感じないんだよね。一瞬すぎて。はい、着てた服。」

円柱の側面がぱかっとポストみたいに開いて服が出てきた。

「ありがと…。」

ハイテクすぎてよくわかんない。
とりあえず私の服は溶かされたらしい。
まじまじと服を見ても変化は感じられない。うん。気にしないことにしよう。

「で?どうしろって?」
「ジムに来たんだから運動しようぜ!ランニングマシンで耐久レースな!」
「はい?こっちはずっと動いてない引きこもりなんですけど?」
「とか言って朝日めちゃくちゃ体力あるでしょ」
「もう衰えた。」
「まあまあとりあえず。勝ったほうがお昼ご飯を決める権利を持ちますのでそこんとこよろしく!それとも負けるのが嫌なのカナ?」

うざい。はっきり言ってこんなガキっぽい挑発に乗るのも癪だけどお昼ご飯は私が選ぶ!
闘志を燃やしてランニングマシンに乗った。