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そこに見えたのは螺旋状の大きな、と言うか大きすぎて大きいとか言う次元じゃないくらい大きい建物。
真四角のシェルターとは違ってデザイン的で、木やガラスを基調としたお洒落な建物だ。

「ここがねー、センター。俺1人で作ったんだぜ。すごいでしょ。」
「え、うん。すごい。え、ほんとに?」
「まあ正確には専用のロボット作ってプログラミングしたんだけど。」

いやロボを作るのもプログラムするのも十分すごい。

ぷすぷすぷす、と最新型の見た目のくせに壊れそうな音を立ててバイクは着陸した。
これ大丈夫なの?と聞くと「わざと音が出るようにしてるだけだから大丈夫!」と言っていた。
ちょっと古ぼけた感じに愛着が持てるらしい。わからんこともない。ちょっとかわいい。

建物に入ると球状のボディに半球状の頭が乗った何かに似ているロボットがやってきた。
なんだろこれ。かわいいけども。

「こ、こんにちは?」
『朝日さん、いらっしゃいませ!』
「ああ、sora!」

それが発した声でsoraだと分かった。
このロボットが一応soraの本体らしい。

『朝日さんどうぞこちらです!』

soraに案内されて【リビングルーム】と書かれた部屋に入る。
天井は吹き抜けでガラスの天窓がついていて温かな光がたっぷり差し込んでいて、ガラスのはまった壁にスカイブルーが反射していて綺麗で、とっても広かった。リビングの広さじゃない。

「朝日、ごめんちょっと待ってて。あ、soraと話してていいよ。」
「はーい。」

とりあえず近くにあった赤い色のソファーに腰掛ける。やばっ、ふわふわ…。

『朝日さん、どうですか、このセンターは。素敵でしょう』
「うん。おしゃれ。」

あのチャラ男が作ったとは到底思えない。

『朝日さん意外と口悪めですよね。』

…え、声に出てた?声には出してないつもりなんだけど。

『人間の心は仕組みが単純です。脳みその反応や心拍数などで心は読めます。』

やば。怖。

『怖くないです。』
「なんか私話してないのに会話してるから変な感じ。」
『新感覚!新しい会話の仕方!ぜひこの機会にいかがですかー!』
「デパ地下の宣伝の人にそっくり。ってか人間の声出せるんだね。」
『一応AIと人間で区別つけようと言う観点からこの声で普段はいますが、話し方やイントネーションはちゃんと学習しているので話せますよ。その辺の人間よりかは遥かに声真似上手だと思います!』

soraが自慢げに言うので無理難題を押し付けてみた。
お笑い芸人から女優、アニメのキャラクター、とらえもん(トラ型ロボットのキャラクター。)の声が変わる前と変わったあとそれぞれ、挙句に琉斗の真似まで。

soraは完璧にこなした。すごすぎる。
さらに得意げなsoraが笑ったことに驚いてると(だって…AIって笑うの!?)琉斗が戻ってきた。

「なんだよ sora、俺と話すより楽しそうだな。」
『久しぶりに、というか初めて琉斗以外の人と話したんですよ!ガールズトークですよ!』
「え、 soraお前女子なの?」
『AIに性別とかありません!好きな方でいいんです!細かいところを気にするやつはモテないわよ!』
「やばい soraのテンションが爆発してる。」
「いつもこんなやつって訳じゃないのね。」
「うん。ちゃんと機械っぽいよ。」

ちゃんと機械っぽい、ってなんか面白い。

「あ、お茶持ってきたからどうぞ。」
「ありがと」

お茶は玄米茶だった。しかもめっちゃおいしいやつ…。

「ね、ねえ朝日、ステラの生活、教えてくれない?できれば地球の後半の生活から話してほしいんだけど。」
「ん?いいけど。」

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「えー。まじかぁ。うーん。」

途中にお昼ご飯を挟みつつ一通り話すと、差し込む光は黄金色になっていた。そんなに長く話していたとは思わなかった。琉斗もしょっちゅう「え、ちょっと待って。それって…」と質問を挟んできたからだと思う。

琉斗はやたら顔を顰めて考え込むように体を曲げた。

『朝日さん、そろそろ帰る時間ですよ。今帰らないと死んじゃいますよ。』
「死にはしないでしょ。」
『それがですね…ほんとなんですよ。夜は絶対に向こうに帰らなきゃ死んじゃいます。こちらの諸事情により。申し訳ありません。』
「えー。なんでだろ。変なの。まあ、死にたくないから帰るわ。明日って来れるの?」
『はい。次に来れるのは明日の午前6時です。』
「ふーん。じゃあ来よっかな。」
「ホント⁉︎よかった!」
「え?」
「え?なんか変なこと言った?」
「だって『また来る』ってだけで喜ぶような仲?」
「なんだよひねくれてるな。そんなん言ったら朝日だって『明日も来る』ってさ。そんなに楽しかったか?」
「あんたが誰かもよくわかんないしここがどこかもよくわかんないけどこっちの方がよっぽど面白いしね。ご飯も美味しいし。」
「そこ⁉︎」
『ほらほら、遅れますよ。朝日さん死にますよ。』
「言い方が物騒。」
「ごめん。いやマジなんだよ。行こう。」

同じようにバイクで空を飛び、なんにもない星の地平線の夕日を見て、鏡についた。

「また触ればいいの?」
「うん。今、5時59分40秒。時間ギリギリ!」
「じゃあね。」
「ん!また明日ー!」

鏡に手を触れると同じように白く光って、私はあの無機質で酸素の薄い廊下に立っていた。

ああも色の溢れた場所にいるとなぁ。
急に白とかグレーとかしか見えなくなるとほんとに色彩感覚なくなったんじゃないかと思うくらいに地味な場所。
テーマパークから出てきて、駐車場を見てがっかりするような。そんな感覚。

思わず一つ、ため息をついた。

部屋に戻って着いていたお昼を回収する。お昼食べたパスタ、美味しかったな。こんな缶詰とは大違いだ。
夕食はまた缶詰を食べて、ステラに来て初めて目覚まし時計をセットし、ベットに入った。