「わぁ。久しぶり。朝日!こんな早くくるとは。」

「うわっ」

人の声がした。え?

振り向くと、そこには同年代と思われる男子。
よく分かんないけどめちゃくちゃ満面の笑みで、水をぴちゃぴちゃと踏みながら近づいてくる。
日の光で茶髪の髪が金色に反射していて、やたらとキラキラオーラをまいていた。

んー。見た目で判断するなら…、チャラそう?
この髪の毛は地毛なんだろうか。だいぶ自然に見えるけど日本人っぽいし日本人にしてはかなり明るい色だ。

彼の踏んだ水が滑らかな波紋を広げて私の足にぶつかった。
素足に触れた水が心地よい。水に合わせて揺れる草たちがくすぐったい。

「ん?何そんなに俺のこと見つめて。感動で言葉も出ないって?」

見た目だけじゃなくチャラかった…。

「え、えーっと。どちら様ですか?久しぶりって何?え、会ったことあります?え、なんで私の名前知ってんの?は?」

「・・・。」

愕然としてます!って感じでポカンと口を開けて固まった男子。
え。何この人。え。意味わかんない。

「え、見覚え無い?ほんとに?」
「何そんな定番なナンパの手口使ってんのよ。」
「ナンパだなんて失礼な。」

チャラい。何回でも言う。チャラい。

「えー…。うーん…そうかぁ…覚えてないかぁ…」
「まだそのネタ引きずるの?」
「いや、ネタじゃないんだよ…。」

ネタじゃないとか言われてもねー。知らないしねー。いきなり大自然に来たと思えば、こんなチャラ男に絡まれて…。全く災難でしかない気がする。本当に意味がわからない。

「え、ねえ。だからさ、なんで私の名前知ってんの?」
「知り合いの名前は知ってるもんだろ。」
「フルネームは?」
「立花朝日。」
「えなんで知ってんの…。」
「だから…」
「知り合いじゃないです!」
「ひどいなぁ。好きなお茶は玄米茶。嫌いな食べ物は牡蠣と雲丹と豆腐。好きな食べ物はパイナップルとなすと甘いもの。」
「怖っっっっっっっ!!え、なにストーカー!?」
「ストーカーじゃないよぅ。」
「何者なのよあなた…。んー…若っっっっ干見たことあるかも?え?ほんとに会ったことある?名前は?」
青木琉斗(あおきりゅうと)16歳でーすっ!!」

・・・・・。

チャラいのもあるけどテンション高すぎない…!?
ってかまじ知らない。多分どっかの芸能人に似てたとかだと思う。絶対知らない。

「えーー。ほんとに覚えてないの…?」
「覚えてるとか忘れてるとか…何私記憶喪失にでもなって、なる前に知り合いだっただとか?」
「うーん。まあ、近くもなく遠くもなく…。」
「なにそれ。いや私健康だし一生の記憶ちゃんとありますけど?一才とかは置いといて。」
「んー…どうしようか……これじゃあ意味ないよ……。」

なんか1人でブツブツ言い始めた。
ほっといて少し周りを見てみると私が通って来たのであろう一枚の鏡があった。水面が映り込んでいて一瞬どこにあるかわからない。

「ねえ、これなに?」

鏡の横に小さくて四角い、モバイルバッテリーみたいなのがある。

「ん?あぁ。その鏡の説明書きとか。まあ、俺の相棒のAIをこの鏡用に小さくしたやつ。タップしたら画面が出てくる。」
「ふーん。」

なんかすごくハイテクだ。

「っていうかなんであなたはここにいるの?鏡で来たの?」
「いや、まあ。それは、まあ。」
「へーえ?」

試しにタップしてみるとポワンと機械の音が鳴って、大自然に似合わないデジタルブルーの画面が浮き上がる。

『アップロード中』
『アップロードが完了しました。』

『こんにちは。私はsoraです。あなたは立花朝日さんですね?』
「あ、はい。立花朝日です。え、なんで知ってるの?」
『朝日さんは鏡を通りましたから。鏡の通過者の情報は読み取れるようになっています。』

すご。ちょっと怖いけど。

『朝日さん、この鏡は、この場所とステラを繋ぐゲートのようなものです。基本的に琉斗が許可した人のみ扉を見つけることが出来ます。この場所は、[テール]と琉斗は名付けています。』

「琉斗が名付けたって何?この人そんなに偉い人なの?」
「いや、俺しかいないだけ。」
「え〜もったいな。」

こんなに綺麗なのに。

『この鏡がステラとつながるのは午前6時と午後18時のみとなります。』
「変わってるね。え、じゃあ私戻れないの?」
『はい。そういうことになります。』

慌てて手を鏡に触れてみるも、何も起こらない。

「なんでそんな風にしてるの…?」
『万が一誰かに見つかった時のちょっとした回避策です。』
「え、私見つけちゃったけどまずった?」
『いえ。』

なんなんだろう。

……。
特に話すことがなくなったのか、soraは何も言わなくなる。

えっと。どうするの?

『あ、朝日さん、立ちっぱなしで疲れてませんか?そうですよ!琉斗、気が利きませんね。いつまでもお客さんをこんなところに立たせておくなんて。センターに連れて行ってあげてはどうですか。』
「えっ?ああ、ごめん朝日。行こっか。乗って。」

こんな得体の知れないやつについていくのもなんかと思うんですけどそれ以外何もないんでいくしかない。

ポケットから出した四角いカプセルは琉斗がボタンを押すとバイクのようなものに変わった。
白や銀がベースの車体は光るブルーのラインが入っていてなんだか近未来的。
琉斗が乗ったバイクの後ろに腰掛けると、ピピッと音がして、バイクが浮いた。うわっ。浮いた。空飛ぶバイクってさ。あれじゃん。言わないけど。パクリじゃん。この人の好みなのかなんなのか…。

「しっかり捕まっとけよ?捕まったな?いくぞ?」
「では出発いたしまーす!快適な空の旅をお楽しみくださーい♪」

キャビンアテンダントのような甲高い声を出して琉斗はバイクを発進させた。
でも空飛ぶバイクは気持ちよかった。
水面ギリギリを走っていくから少し飛沫が細かく飛んできてひんやりと涼しいし新鮮な風が思いっきり吹いてくる。

しかし楽しんだのも束の間。なんとバイクはそのまま山に向かって突進していく。え?
まさか突っ込まないよね…!?

バイクはそのまま突き進んだ。崖にぶつかる…っ!!
思わず目をギュッと閉じた。

「朝日捕まって!」

琉斗の声が聞こえて手に力を入れる。

体が不意に浮きそうになった。ってか浮いた。
背中がグッと引っ張られるような感覚で体が真横になっていた。

崖にぶつかって…はいなかった。

「うわぁーーーーー!!」

バイクは真上に向かって進んでいた。猛スピードで風を切って空に向かって走っていく。
バイクの走る地面が崖から飛び出してぶわっと宙に出た。
上空から見るテールはやっぱり水で覆われていてとても美しかった。

「ちょっとあなた人の命がかかってるんだからもっと安全運転してよ!」
「ごめんごめん。でもこのほうが面白くない?」
「面白いかもしれないけど危ないっ!!」
『さすがに今のは攻めすぎです。』
「…はい。ごめんなさい。」

少しバイクの勢いが落ちた。
そのまま山をいくつか越えて、山間部に着陸した。