部屋は、短時間でかなり荒らされてしまっていた。
「元はといえば、俺が連れ込んだのが悪かったわけだしな」
けれど、残っていた薄川が手を貸してくれて、むしろ早いこと片付いていく。
カンザシに憑かれた男は、あのあと意識を取り戻したようで、彼が帰してくれたとのことだった。
悩みが一切ないという顔ではなかったが、なにかを悟ったような顔つきをしていたそうだ。
今回の神社コン参加によってか、お祓いの甲斐によってか、自分の気持ちの中で振り切れるものがあったのかもしれない。
「ありがとうね、なんだかんだ頼りになるね幼馴染は」
「余計なお世話だっつの」
横野寺まで、結衣は薄川を見送りに行く。
山姫は祓ったはずだが、鬱蒼とした緑を深める鎮守の森からは、また山鳴りがしていた。
長年、この道は参道とも生活路ともしているけれど、こう違和感がある状態が続いたことはあまりない。
「──つけろよ」
気を散らされ、八割方が右から左へ抜けてしまった。
「えっと、なんて?」
「ちゃんと聞けよ、バカ。気をつけろよ、って言ったんだ。あの恋時とかいう妖。やっぱりどう考えても、普通の妖じゃないだろ」
「……だから私の根付けが化けたんだって」
まるでなにも聞いていないかのごとく、それには反応せず、薄川は立ち止まる。
どこを見るでもなく、空に目をやった。
追えば、ぽつんと一つだけの雲が風に流されている。
奥では、大きな塊となった積乱雲が怪しげな灰色に淀む。
「なぁ八雲。妖たくさん家に抱え込んで、もしかして昔の自分を重ねてんのか」
「なにを言ってるの」
「はぐれ者には場所を与えないと、とか思ってる?」
「……ちょっと」
制止するけれど、薄川は止まらない。空に向かって目をしかめている。
「さっきお前は、『自分と向き合え』って言ってたけどさ、無理にする必要ってあんのかな、それ。……気にしすぎるから悩むってこともあるんじゃねぇの。神社のため、親の期待に応えるため、ってお前は頑張りすぎなんだよ」
結衣は、靴の中、足の指先を内へ握り込んだ。
砂利がソールの下で擦れ合う。
少し心の用意が必要だった。どうにか結衣が考えないようにしてきたことを、彼は言おうとしている。
「妖が見えるって能力で連れてこられた、養子だからってさ」