結衣は、無記名で早々に提出を済ませる。

他の参加者たちは、人によってはかなり悩んでいるようだった。

好感をもった人が何人いても、書けるのは一人。

かつ、相手とマッチするかどうかも計算しなければならないのだ。

全員分のシートが恋時によって集められる。少しの集計時間を置いて、

「一番さんと十四番さん、八番さんと十二番さん、カップル成立です。おめでとうございます」

結果が通知された。

「カップルとなった方々、おめでとうございます。前へどうぞ。記念品を贈呈いたします」

その中の一人に、結衣が気にしていた神社仏閣好きの男もいたようだ。

彼は、まるで繰り人形のように立ち上がる。
数歩、カニ歩きのように不自然な腕振りとともにバタバタ歩いたと思ったら、膝が不自然に折れる。そのまま、なんと頭から崩れ落ちた。


ふっと鼻腔をかすめた匂いに、結衣はとっさに彼のもとへと駆け寄る。

鼻につく、言い知れぬおぞましさを想起する香。

はっきりと、化け妖の匂いがしていた。
そのうえ、川底の泥かのような姿も、首筋から覗いている。

「どうして分からなかったんだろ」

めでたく祝われるはずの人が倒れ、空気がその色合いをくすませる。

喜びに満ちていた人も、落ち込んでいた人も、興味をなくして携帯をいじっていた人も、一様に不安げな表情になっていた。

結衣は思いつきで、挙手をする。

「たぶん、立ちくらみじゃないでしょうか! 私、お薬持ってるので、ちょっと様子見しますね。いいですか、神主さん。閉会式は続けてもらっていいので」

たまたま同じ飛行機に乗り合わせ、倒れた患者の容態を把握し終えた医者。そんな想定だった。

右目を瞑って、この茶番に乗ってくれるよう恋時に合図を送る。

「では、お願いいたします。薄川さん、お手数ですが運ぶのを手伝ってもらってもよろしいですか」
「お、おう。もちろんだ」

タンカー役を、引き受けてくれる人もいた。