短い休憩を挟んだあとは、場所を本堂へ移しての、祈祷式となっていた。

婚活パーティーには当然なかった題目だが、神社コンならばとプログラムに織り込んだものだ。

だが、宮司である結衣は参加者扱いになっている。

どうするかといえば、

「高天原(たかあまのはら)に神留坐(かむづまりまざ)す神漏岐(かむろぎ)神漏美(かむろみ)の──」

これも恋時が代役を務めた。

太鼓打ちも、お清めのお祓いも卒なくこなす。難所であるはずの大祓詞奏上も、お手の物だった。

大祓詞は、普段の祓詞より長く、特別な行事の時にのみ奏上する珍しいもの。

けれど、間違えないのは当然として、一音一音に余韻を残しながらリズムも失わない。
息切れで失速するようなこともなかった。


元々は結衣の根付けである。結衣の練習や、父親の祈祷を聞かされるうちに覚えたのだろうか。

鈴の音は、裏でハチが鳴らしているようだった。雪子もお渡し用の札の用意などに一役買っている。

「あぁ、可愛いわね、とっても」

札を抱いて、頬擦りをしているのは余計だけれど、気持ちは分かる。

今回の神社コンのために、特別なデザインを施したものだった。
縁結びを祈念するため、幸福を呼ぶとされる鈴蘭の花を模様にあしらってある。


父の代に使っていたお札から、案をいただいてきたものだ。今のデザインはよりシンプルに、リボンが結ばれた絵が施してある。

見た目だけではなく、実際にお祓いの効果を持たせることもできる神符だ。

(……とりあえず、無駄な心配だったかな?)

始まる時は妖だけで運営だなんて無謀なのではと気が気でならなかったが、この分なら問題なさそうだ。

正座の姿勢だった。

ほっとした結衣は、前のめりになっていた体重を、かかとへ移す。と、甲がなにかを踏んづけた感触かあった。足を上げ、物を見て目が丸くなる。

「……針!」

赤色の玉がついた、まち針だった。

横倒しになっていたからよかったものの、ひとつ間違えば出血していたかもしれない。


雪子がお裁縫道具箱から落としていったのだろうか。

つまみ上げて、ジェスチャーだけで確かめる。


彼女は、知らないとばかりに首を振っていた。

ということは、誰かの落とし物? なぜこんなものを? 普通、持ち歩くようなものではない。

ひとまず、結衣はそれをハンカチに包んでポケットにしまった。



全部で三時間程度の行程だった。

企画するには時間をかなり要したのだが、参加者側に回ってみれば早いものだった。あっという間に、残り一時間となる。

最後のプログラムは、食事を取りながらのフリータイムだ。

「みなさん、お好きな料理を、セルフでお取りいただき、ご自由に席についていください。会の終わりには、ペアになりたい方の名前を記入したカードを提出いただきます」

カップルが成立するには、ここが肝心要になる。

さっきまでとは違い、会話時間などに制限は設けられない。興味のある相手とだけ、親交を深めることができるのだ。

開始早々、いくつかの輪が形成されていく。人気を争う競技でもないが、やはり可愛かったり綺麗な女性の元には、たくさんの男が押し寄せていた。

結衣のところはといえば、

「……やっぱり年下ってダメなのかな。俺、少しは自信あったんだけど」

若干一名の幼なじみが泣きついてきていた。


本当にどうして来たのだろう、彼は。

そう思うことで、結衣もひっそりと、彼しか来なかったショックを紛らわす。

「まぁ、みんな働いてる人ばっかりだもんね。とくに婚活する女の人って、安定感求めがちだし」
「あぁらそういうことか。もしかして見た目のせいじゃないよな……、な?」

それもあるだろうけれど、むしろそれが八割かもしれないけれど。

結衣は、とりあえず頷いておく。

「そっかぁ。安定感かぁ。たしかに大学生にはないよな。……あー、そう考えたら、結婚とか出産とかって程遠い話に思えてきた」
「言っても、あと五、六年もしたら同級生のみんなも結婚していくんじゃない?」

想像つかねぇ、と薄川は唖然とした顔になる。

つくねを小皿から箸で掬うと、一口で放り込んだ。

今回の料理は全て、結衣のお手製である。それはあえて言わずに、薄川が噛むのを期待と不安を半々に見つめる。

「……柔らかい。噛むほど、香ばしいし。市販のものじゃないだろ、これ」

好評と取ってよさそうだ。少し下り坂だった結衣の気分は、ぐんと上向く。

「そうなの! これね、節約でお豆腐多めで作っててるんだ。スパイスは、少し山椒多めで!」
「そうか、やっぱり手作りか。八雲の作るものは昔からなんでも美味しいな。これ食べられただけでも今日はきて良かったかも」

「そ、そこまでのものじゃないでしょ」


結衣の頬がぽっと赤く染まる。

料理を褒められると、毎日の努力が報われた気がして嬉しい。
それだけのことなのだが、周りの婚活参加者たちの熱っぽさに当てられたのか、不必要なまでに胸が高鳴っていた。

「……それにしても、ちゃんと盛り上がってくれて良かったよ」

薄川から身体を背け、むりやり話題を変える。

顔をグラスに埋めるようにして紅茶に口をつけて、会場全体を見渡した。

少なくとも、孤立している人はいない。さっきの中性的な男も、ボーイッシュな風貌の女性と二人、ぎこちないながら会話を楽しんでいる。

ちらり、彼と目が合う。
結衣は軽く会釈をして、すぐ目を流した。凝視すぎてしまっていたようだ。

「……こりゃあ大成功じゃねぇの、万年、鈴の鳴らされない八羽神社にしてみたら」
「ちょっと立地が平地にあるからって威張らないでよ。これから、たくさんくる予定だからね」

結衣は真っ向から言い返す。
恋時が、その始終を眺めていたらしい。

「いいんですよ、結衣さん。今に立派な神社になりますから。参拝客も取り合うよりは、共存する方がいいでしょう?」
「それはそうだな。仲良く生き残りたいもんだ」

またしても、手を取り合う二人。さっきからなんなのだろう。

無駄に雪子が溶けて、床が痛みかねないのでやめてほしい。仲介に入ろうとしたところ、背中を誰かに突かれた。

「きゃっ!」

よろけた結衣を、二人が止めてくれる。

「ごめん、ありがとう」
「…………結衣さん、衣装の裾が」「しっかり破れてるぞ、お前」

たしかに、はじめはなかった浅いスリットが入っていた。
恥じらいから、結衣はその箇所を握り絞る。

慣れないおしゃれ着だ。知らぬ間に、どこかで引っ掛けたのかもしれない。

「もう会も終わります。後ろに下がっててもいいのでは?」「俺もそう思うな。着替えて戻ったりなんかしたら、関係者だってばれるだろうし」
「ううん、ちゃんと最後まで見届けないと。とりあえず、クリップで留めておくよ」

今日は、どうにもついていない。

もしかして星座運でも悪かったのかしら、サクラとして紛れ込んだバチが当たってたり。考え巡らせているうちに、フリートークタイムが終わる。


いよいよ、カップリングカードの記入時間になった。