未央と別れて、恋時と二人。今日二度目の家路につく。
夕方のセールこそ逃したが、今度は閉店間際の駆け込みで、安値でいくつかの材料を調達できた。
ハチは疲れ切っていたはずだったが、
「いやぁ今日は僕頑張ったやろ。スーパーヒーローやで、しかし。駅伝やったら区間賞、新記録は堅いな」
フォーク、スプーンの両手持ちで結衣を迎えた。ご褒美をもらう気満々である。
やや自己評価は甘めだが、ハチの貢献度は確かに高かった。
そんな彼のため、結衣が作ったのは、
「なんや、これ! えぇやん! スパイシーな香りがするわ。ほんでこの肉も良さげやんか」
タコライスだった。温泉卵に、カットレタス、トマト、玉ねぎ。具材も豊富で、見た目も写真映えしそうだ。
ただし甘辛く炒めたのは、
「ふふっ、それ実はおからなんだ」
「……また肉やないんかい! また豆かいな!」
「ヘルシーでいいでしょ。豆は畑のお肉って言われてるんだから。それに、今回は先に教えてあげただけ優しいでしょ」
「胃にも優しすぎるけどな!」
肉を使うつもりではあったのだ。
けれど、貧乏の味方、鶏胸のひき肉が売り切れ状態だったのだから仕方ない。
いつもより、量が欲しいというのもあった。
「伯人くんのも用意したから、一緒に食べよ」
例のごとく和室に籠もっていた彼に、こう呼びかける。
古い襖がゆっくりと開いた。恋時が首をのぞかせる。
「……俺は食べなくても生きていけますよ」
「知ってる。でも、食べても生きていけるでしょ? こういうのはみんなで囲んでこそ仲間って感じがしない? ……まぁ雪子はまたいないけどさ」
結衣なりの、気持ちを示したつもりだった。
既に盛りつけた平皿を、桃色のランチョンマットの上に置く。
破れてしまった恋時の手提げに少し手を加えて、再利用したものだ。あらゆる節約法を身に付けてきたから、これくらいのリメイクはお手の物である。
「食べる人いないなら捨てなきゃかなぁ」
「えっ、捨てるんなら僕が食べるで……って、あ。これ、タイミングちゃうやつやな?」
「……ハチ、ちょっと黙ってて」
「空気読めへんくて、すまん! 堪忍やで!」
「全くハチってば。──で、どうかな? 伯人くん」
気を取り直して、問いかける。
有無を言わさず皿を用意してしまえば、彼は断らないと思ったのだ。
お金に目のない恋時の、もったいない精神に賭けた。
「……そういうことであれば、ご相伴に預かります」
どうやらうまくいったようだ。
「もう、固いってば。お客様じゃないんだよ、伯人くんは」
恋時は、そういうものですか、と独りごちる。
ぎこちない動きで席につくと、
「では、……いただきます」
静かに手を合わせた。結衣とハチが固唾を飲んで見守るなか、一口目が口へ運ばれる。
「……おからとは思えないほど、いい食感ですね。言われなければ分からなかったかもしれません。柔らかく、味もよく染みています」
「ほんまか! つまり肉やと思えば、もうそれは肉やん!」
「……肉だと思っても、おからだよ。ハチ」
「せっかく現実逃避してんねんから、言わんくてもえぇやん!」
食卓を挟んで、賑やかな会話が飛び交う。
やっと本当の意味で、仲間になれたような気のするひと時だった。