夕飯の支度には、すぐ取り掛かった。ハンバーグのタネをこしらえて、冷蔵庫で寝かせる。そのうちに、味噌汁を作ることにした。残っていた野菜を一口サイズに切っていく。レシピを見ずとも感覚でそれなりのものができるから、味噌汁は我が家の定番メニューだ。
「ご飯、そろそろ?」
出汁の匂いに反応したのか、弟がリビングに顔を出す。
「もう少しだから塾の宿題でもしてろー。出来次第で、ハンバーグの大きさ変えるからな」
純粋なもので、弟は顔色を変えて部屋へと引き下がった。
実際やっていたかは知らない。けれど、元から一番大きなものを用意してやるつもりだった。準備が整って、食卓を囲む。米も、無事に炊きあがっていた。
「明日早く帰ってこれない? 兄ちゃんとしたいゲームがあるの」
「うーん、遅くなると思うけど」
「あぁそうだよね、文化祭前だし」
「まぁ分かった、極力早く帰るようにするよ」
ハンバーグの出来は、いまいちだった。やはり割り引かれているものにはそれなりの理由がある。けれど弟は、それを満足そうに頬張っていた。
食後は、家事に移った。インスタントコーヒーの空き瓶に親父が溜めた、タバコの吸い殻をポリ袋へ移す。テーブルの上を、布巾片手に片す。
そこへきて、貰ったアボカドのことを思い出した。たしかに歪な形をしている。その上、忘れられて放置。そのごつとした表皮を触りながら、それに少し自分を重ねてしまった。
「固いなぁ」
俺も置き去りにされてきた。他ならぬ、自分を自分で後回しにしてきた。
そして今俺は、己が意志さえ分からないでいる。