再開した試合では、山田くんがさっきのプレーを取り返そうとしたのか、猛チャージをかけていた。前線でボールを受ける。

しかし空回り、トラップし損ねたボールは股下を綺麗にトンネル、抜けていった。まるでコントみたい。

それがちょうど私たちの方へ転がってくる。粒になるほど汗を垂らしながら取りにきた山田くんに、

「だっさ。なにやってんの、へぼ。二年五組の恥さらし~」
「なんで冬服なの?」

茉莉ちゃんと掛けた言葉が重なる。
二人で笑いあうのをみて、山田くんは恥ずかしそうに頭をかいた。

「忘れたからな~、郁人の借りてんだ。好きで着てるんじゃない、これ大事なところだから」
「ふーん。ならそれくらい活躍したら?」茉莉ちゃんが意地悪そうに笑んで言う。
「……あいつがおかしいの。運動部の面子とかねぇよ。帰宅部の動きじゃないね、夜中一人でボール蹴ってんじゃねぇの公園で。完全に友達だもんなぁ」

「剣道部が言い訳してる~」
「あのな! そもそも剣道とサッカーなんてなにも関係ないじゃん」
「帰宅部のが関係ないと思うけどー?」

二人が少し間、仲がいい(?)ならではの言い合いをする。しばらく応酬が続いて、

「山田はベンチ行き!!」

その背に先生が怒鳴り上げた。
いけないと分かっていながらも、ベンチだってと、私は笑ってしまう。

茉莉ちゃんに至っては、我慢ならないとばかり腹を抱えて地面に足を交互に叩きつけていた。

「……あー、もう。うまくいかねぇなぁ」

山田くんはこう言い残して、気だるげに去っていく。そのなで肩に丸まった背中を見ながら私は気になること一つ。

「ね。二人はどうなの。いい感じに見えたけど」
「え、どうもないよ。気のせいじゃん? ていうか、格好悪くない? 山田。前髪がワカメみたいになって余計だし」
「そこが面白いとこじゃんか」
「まぁね、でもクラスのみんなが言うようなロマンスはない、ない。せいぜーコメディ、ラブのない奴ね」

茉莉ちゃんはグラウンドに小さくバツマークを描く。

私はどうだろう、マルかバツか。決められないから悩んでいる。結果なんとなく、その横に丸を描いた。自然マルバツゲームが始まる。

「ね、あたしが勝ったらパン買いに行くのついてきて」
「別に勝ち負け関係なく行くよ?」
「優しいなぁ、一果は。でもどうせなら勝ってきてもらう~」

やっているうちに、チャイムが鳴って授業が終わった。結果は、私の負けだった。

着替えが終わって、昼休みに入る。約束どおり、私は茉莉ちゃんについて購買に行った。

「前にジュース奢ってくれたから、今日は私が出す。選びな~、やっぱリプトン?」
「ありがと。んーでも、今日はやめとく」

マテ茶を選ぶ。ローカフェイン、ビタミン豊富! 売り文句に誘われた。少し気を抜くとすぐ、ももの裏から肉がついてくるから困る。甘い紅茶は、好物でもあり難敵でもある。
会計を待っていたら、

「一果~、ほんとごめん! 一円ある? お金だと思ったら、違うかった。大きいの崩したくなくて」
「ふふっ、あったと思うよ」

私は軽く請け合って、財布から一円玉を取りだした。

「毎度買ってくれてありがとうね、お二人さん。でも、プルトップじゃ買えないよ」
「言われなくても分かってます~」

販売員はいつも同じ中年の女性だ。そろそろクーポン券くらいくれても、と会話をしてから教室へ戻った。
なにもなければ、昼食は班の四人で私の机を囲むのが一学期からの定番だ。

「おい山田、普通ミートボール持っていく? 大事な肉要素なのに」
「さっきボール奪われた仕返しだと思えって。いいところ持っていったんだから、これくらい」

「じゃあ俺は生姜焼き貰う」
「えっそれむしろ俺マイナスじゃん! というか一枚しかないのに」

既に、男子二人が弁当のおかずの取り合いをしていた。囲む卓は、いつも賑やかしい。

茉莉ちゃんはクリームデニッシュの袋を開けながら、けらけらとそれを眺める。たしか昨日はメロンパンで、一昨日はチョココロネ。心配になるくらい、いつも菓子パンだ。

友達には健康でいて欲しいもの。好機と私はその前、自分の弁当を差し出して、

「どれか食べる? なに奪っていってもいいよ」
「じゃあ卵焼き! ……って交換するものないな、あたし。チョコとかでもいい?」
「いいね、嬉しい」

甘いものは好き。でも自分で買うとつい食べすぎてしまうから、人に少し貰うくらいがちょうどいい。私は箸を持っていない茉莉ちゃんの口に、半分に切った卵焼きを入れる。それを見てか

「じゃあこれもどう? 今宮家自家製卵焼き。あ、栗原さんもいる?」
「郁人、そこは俺にも聞けって。うちのおかん関東出身だから、山田家の卵焼きは甘いんだ。みんな交換しようぜ」

今宮くんも山田くんも参加してきて、結果落ち着いたおかず交換会になった。