五


月曜日。

俺は終礼が終わってすぐ、校舎を出た。

日曜日丸一日あっても、感情の整理はついぞできなかった。
栗原との約束は反故にすることになるけれど、誘拐まがいのことをした時点で、どうせ今さら印象なんて最悪に違いない。

それに、別の約束もしてしまった。野中さんから喫茶でお喋りでも、と誘われたのだ。彼女の方から土曜日のうちに連絡がきていた。

芹奈の告白まがいの意味深な態度のこともあって俺が受け身になっているうちに、とんとんと日時が決められていく。
随分と気に入ってもらえたらしく、SNSのフォローまであった。

野中さんは俺にはもったいないくらい、可愛い。顔を七十点として、プロポーションは九十点。総計しても、八十点は堅い。それが向こうから誘ってくれているとなれば、紹介されたことから含め、有り難い状況である。

だから、この機だと今朝方思い立った。いつまでも考えを鬱積させていても仕方がない。どうせ行っても、なにも変わらないのだ。どうせ思っても一方通行なら、引き返せるうちにやめた方がいい。そろそろ楽になってもいい頃合いだろう。

駅に向かうバスに乗りこむ。
発車の定刻までは少し時間があって、運転士は車体にたれかかり煙草をふかしていた。風に流される煙が焦れったかった、時間の経過が、自分の迷いが。

イヤホンをして、音楽で未練を塞ぐ。

しばらく経って、ようやくエンジンがかかりアナウンスとともに、扉が閉まった。バスがロータリーを抜けて、ゴルフ場沿いの坂を下りはじめる。振り返らない、ここが決別の時だ。うるさく話す同じ学校の生徒たちの中、一人、唇を結ぶ。背中から夕日が指す、逆光で少し黒ずんだ前だけを見つめる。

そこへ、あの曲が流れてきた。ラップ調、チョーキングされたエレキギターが、軽い音で鳴る。二つ目のバス停を超えたところ、サビに入った。

たぎり、思い切り、これきり。

なぜか心臓が思いきり一つ跳ねた。俺は、どうしたいのだろう本当は。

本当は、分かっていた。今みたく無理やり目を背けても、解決はないこと。栗原に言われなくとも分かっていた。郁人が理由なくあんな発言をしないことも、全部だ。

足先、手先、末端まで一斉に血が巡る。


まだ遅くはないかもしれない。取り急ぎ、野中さんに急用が入ったと断りを入れる。ボタンを押し、混雑するバス内を最前列まで伝う。次の停留所で降り立った。