二
 


苦くも、甘くもない帰り道だった。

だから翌日の体育の時間、

「で、昨日の放課後初デートはどうだったの?」

茉莉ちゃんが興味津々、こう聞くのに私ははっきり答えることができなかった。

うーんと、雲一つない晴れ空へ向けて唸る。夏空、高い太陽は六甲山の遙か上から、眩しく照りつけていた。詳細を聞かれ、あったことをそのままに話す。すると茉莉ちゃんも曖昧な表情になって、

「そっか~、まぁ最初からはうまくいかないもんだって」
「……そうなのかな」
「そうそ、きっと。恋愛ってそんなもの、あたしが思うにね。今日も一緒に帰ってみたら? なにか変わるかもよ~」

既に悟りきったような発言だった。

軽そうに言うと、彼女は三角に折っていた足をグラウンドに投げだす。続けてポケットに忍ばせていたらしいシーブリーズを取り出して、首元から体操服の内側へスプレーした。柑橘系の香りが砂の匂いと混じる。

「一果もやっとく? 気持ちいいよ、暑さ忘れられる」
「見つかったら怒られないかな」

「平気でしょ。教師はみんなクーラー使ってんだし、これくらい許してもらわないと割合わなくない?」
「ふふ、ほんとだね。じゃあ借りる。ありがとう」

金曜四限、体育は男女分かれてのサッカーだった。

クラスメイトたちが目の前で、賑やかしくボール回しをする。三限が眠たいともっぱら噂の数学Bだったのもあるかもしれない、揃って動きが伸びやかに見えた。

しかし私はといえば、生理三日目で見学。グラウンドの隅、日陰になっている体育倉庫前から彼らを眺める。とてもじゃないけれど走るなんてできなかった。そもそも運動は苦手で、球技はなおさらセンスがないのだけど。

それから茉莉ちゃんも同じく見学。これは、たぶんサボりだ。気が乗らないと朝から言っていた。

その証拠か茉莉ちゃんは、大きく伸びをする。眠そうにまぶたを手のひらでこすって、いい陽気だねぇと散歩中のおばあちゃんみたく呑気そうに呟き、ボブヘアーの毛先を丸めた。少なくとも、体調が悪そうには見えなかった。

茉莉ちゃんはいつも適度に手を抜いているように見える。最近でこそないけれど、一学期のはじめは休むこともままあった。真面目一本でやってきた私には、その適度な抜き感が羨ましい。私には、どうしてもできない。

「でも、あれが人誑しか~。美人の幼馴染に、可愛い彼女に。意外とモテるねぇ」

茉莉ちゃんが男子の方を見て言う。

誰のことを指しているかはすぐに分かった。ちょうど試合形式での練習に入ろうとしていた男子の中、その彼は列の真ん中で屈伸をしている。

「今宮くんって人気ある方なのかな」

単に疑問に思った。

「お。嫉妬? 知ったら喜ぶかもね」
「違うよ、言わないでね」

「はーい。どうかなぁ安定感はあるよね。誰とでも話せるし明るいし。あと、絶対怒らなさそう。でも、モテるってだけで言うなら山田のがモテるかもよ。あぁいういじられキャラって意外と人気じゃん?」
「そうだね。今宮くんもだけど、わりと女の子と話もしてるよね」
「今宮はそうだねぇ、たまにいいよねって話は聞くよ。山田は、どうだろ。マスコットみたいに扱われてるだけの気もするけど」

そうこう評していたら、試合が始まった。

正式の半分程度の狭いコートだ。キックオフしてすぐ、ボールの奪い合いが繰り広げられる。ボールは中盤で止まり、一進一退の攻防になっていた。普段、日本代表戦でも見ない私もつい目を奪われる。

膠着の中、はじめに抜け出してきたのは、山田くんだった。周りが白基調の半袖短パンの中、一人ライトブルーの長袖長ズボン。高い身長、長めの髪、前髪メンマ。全てくるめて、際立って目立っていた。悪目立ち。

「あっははっ! なにあれ、罰ゲーム?」
「ダイエットでもしてるのかな」
「それ面白い。てか目立ちたいだけだったり」

二人して声を上げて笑う。
先生からお咎めの視線を貰って、私は肩をすくめた。茉莉ちゃんは気にもせず、まだ肩を震わせている。

笑いの種になっているだなんてつゆ知らず、そのうちに山田くんは、ボールをキープしたままゴール前まで上がってきていた。
一人二人と抜いて、身体をゴールの方へ反転。しかしシュートに移るほんの手前で、ボールを取られた。

それを攫ったのは今宮くんで、一気に反対まで走り込む。そして、味方へ鮮やかなスルーパス。守りが手薄になっていたから、簡単にゴールが決まった。
先生も手を叩くほどの、短い時間での反撃だった。今宮くんは、同じチームの子と笑顔で会話を交わす。

「お~、やっぱりモテる男は違うねぇ。やるじゃん、一果の彼氏」
「やめてよ。運動できるからモテるって小学生みたい」
「あぁまぁたしかに。あたしも昔、足速い子好きだったな」

でも、と茉莉ちゃんは一旦言葉を切る。

「今もできる方が格好いいよね」