余韻もそこそこにインタビューが始まったが、十二年分の様々な感情があふれて涙が止まらない。生放送されているというのに、ろくな受け答えも出来ないまま、インタビューが終わった。一方、場慣れしている律は飄々として取材を受けていた。
「あの早さで押されてしまったらどうしようもありませんね。巡、おめでとう」
 敗れてもなお気高い律の顔を俺は直視できなかった。感情の昂ぶりを抑えられないまま閉会式が終わり、そのまま舞台裏へと移動した。
「お前が勝ったのに、なんて顔してるんだよ」
 呆れたように律が笑った。
「だって、俺ずっと律に勝ちたくて、これが律との最後の勝負で、夢じゃないかって、今も思ってる。律はずっと俺の憧れだった」
「俺もずっと巡みたいになりたかった。巡の土壇場での勝負強さが俺にとって一番の脅威だったんだよ。本番で実力が出せるって努力した証拠だろ。すごく尊敬してた。サッカーやってたときからずっと。お前がいないと張り合いがないって思って、サッカー辞めたけど、またクイズで勝負できるようになって嬉しかった。巡との勝負が一番楽しくて、ドキドキして、ワクワクして、ずっと続けてたいって思った。でも、いざ負けるとやっぱり悔しいな」
 律の頬を一筋の涙が伝った。
 俺は馬鹿だ。律の目に映れないなんて勝手に思って勝手に諦めて。どうでもいいやつのために六年間打ち込んできたサッカーをやめるやつなんているわけがないのに。律からサッカーを奪ってしまった罪悪感から目を背けるために八つ当たりをして、勝手に不貞腐れていた。
「馬鹿じゃねえの。俺なんかにそこまでの価値見出すなんて、頭いいくせに馬鹿すぎるんだよ」
「馬鹿じゃない。巡だけが、俺にまっすぐぶつかってきてくれた。誰よりも努力家の巡だけが、俺のことを努力家だって言ってくれた」
 律が泣いているところは初めて見た。天才と呼ばれた律にも律なりの苦悩があったのだ。律の本音にいっそう涙が止まらなくなった。
「だから、巡にふさわしいライバルでいるために、巡以外のやつに絶対負けないって思って頑張ってた。ずっと、巡のライバルでいたかった」
 俺がクイズ研究会にも入れず燻っている間も、ずっと待っていてくれたのだ。俺が有象無象に埋もれている間も、ずっと玉座で勝ち続けていた。俺がその場所に追い付く未来を、ずっと信じてくれていたから。
 憧れと羨望の対象だった男に認められたという事実だけで、感情がキャパオーバー状態だ。今までの人生で一番泣いた。
「泣くなよ、巡。お前は勝者なんだから」
「お前こそ、一回負けたくらいで泣くなよ。俺はお前に何十回も負けてるけど泣かなかったぞ」
「嘘つけ、泣いてただろ。六年前に桜の木まで競走したとき」
 無駄に記憶力の良いやつはこれだから困る。この記憶力はクイズに生かさないともったいない。もし、俺がクイズを続けるのならば、律も続けてくれるかもしれないと考えてしまうのは俺の自惚れだろうか。
「俺、やっぱりクイズ続けることにした。だから律も大学行っても続けろよ、クイズ」
「当たり前だろ。次は絶対負けないからな」
 これからのことを話しながら、あの河原まで歩こうか。あの日と同じように、桜の木まで走ろうか。
 俺はこれからも自分の足で走り続ける。土壇場で命運を分けるのは、たとえ回り道でも全力で走った軌跡の全てなのだから。