土壇場で命運を分けるのは結局運だ。俺は昔から運が悪い人間だった。

(めぐる)って大学でもクイズ続けるの?」
 高校生早押しクイズトーナメント全国大会決勝戦直前、控え室で対戦相手の柏木(かしわぎ)(りつ)が聞いてきた。
「続けない。律は?」
 ここ数か月の重要ニュースをまとめた対策プリントから目を離すことなく即答した。
「そっか。俺も大学は別のことやろうかな。じゃあ、これが俺たちの最後の勝負だ」
 昔からこういうところが嫌いだった。何でも器用にこなす神に愛された天才で、しかも努力家な律には誰も勝てない。今年のクイズ大会はほとんど律が優勝した。おまけに日本屈指のレベルのクイズ研究会のある名門国立大学への進学も決まっているのだ。
 しかし、こいつには執着がない。六年間打ち込んだことだって、あっさりと辞めてしまえるのだ。
 俺はクイズの才能がない。トッププレイヤーと呼ばれる人たちとの間の壁を痛感し、高校を卒業したらきっぱりとクイズをやめることにした。吹っ切れて失う物がなくなった俺は初めて準決勝に進出し、そして勝った。そんな俺がこれから、この伝統あるクイズ大会で高校生最強の座を懸けて律と勝負するなんて奇跡以外の何物でもない。
 俺は律に練習試合ですら勝ったことがない。どうしても惜しいところで負けてしまう。競技クイズを始める遙か昔、小学校で同じサッカークラブに入っていた頃からずっとそうだった。