☆☆☆

あまりにぼんやりと歩いていたから、いつの間に公園まで戻ってきたのか記憶になかった。


(今日もお疲れ様。なにか楽しいことあった?)


司の声が聞こえてきてその場に立ち止まる。
道路には車が行き交っていて公園では子どもたちの遊び声が聞こえてくる。
だけど今の私にはそのどれもに膜がかかっているように、くぐもって聞こえていた。


(……どうかした?)


沈黙が気になったのか司の声が心配そうなものに変わる。
途端に無性に司に会いたくなった。
あのお屋敷に行って、あの大きな部屋の天蓋ベッドの中で私の話を聞いてほしい。


(今からそっちに行ってもいい?)

(今から!?)


驚いた声。
それもそうだろう。
突然家に行きたいと言われたら、誰だって戸惑うし焦ると思う。

だけど司は外に出ることができない。
私から会いにいくしかないんだ。


(わかった。いいよ)


少しの間を置いて司からの返事があった。
断られたらどうしようと思っていたので、ホッと胸をなでおろす。


(じゃあ、今から行くね)

(うん。気をつけて)