「うん」


呼びかけに対していつもの声が聞こえてくる。
風に乗ってではなくて、実際にすぐ近くから聞こえてくる声にまた心臓がバクバクと高鳴り始めた。

これだけ緊張するのは子供の頃のお遊戯会以来かもしれない。
女性が重たいドアを押し開けると、そこに現れたのは私の部屋の倍以上はありそうな広い部屋だった。

真ん中に天蓋付きのベッドがあるが、これも私が使っているものの倍くらいの大きさはあるだろう。
置かれている家具のどれもが高級感があり、ちゃんと手入れされているようでテーブルも棚もつやつやと輝いている。

天井から下がっているチャンデリアは少し控えめなものだったけれど、十分立派だ。


「こんにちは」


広い部屋の広いベッドの上。
天蓋の薄いカーテンの向こうに小柄な少年が上半身を起こして座っているのが見えた。

その声は少し緊張気味だ。


「じゃ、後で紅茶を持ってくるわね」


女性は嬉しそうに少年に声をかけて部屋から出ていく。
バタンッとドアが閉められてとうとうふかりきりになってしまった。

私はおずおずとベッドへ近づいていき、手前で立ち止った。


「美保?」

「うん。司……だよね?」