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一歩屋敷の中へ足を踏み入れるとひろいエントランスが現れた。
エントランスの中央には大きな螺旋階段があり、天井は二階部分まで吹き抜けになっている。

壁には大きな絵画が飾られていたり、見たこともない彫刻が置かれていたりと、まるで博物館だ。
見ているだけで目がチカチカしてくるシャンデリアまでぶら下がっている。


「さ、こっちこっち」


女性はこの屋敷にも似つかわしくない浮かれ具合で、私を案内する。
一応エントランスの手前で靴を脱ぐようにしているようで、そこでふわふわのスリッパに履き替えた。


「元の持ち主は完全に西洋風の生活をしていたみたいだけれど、私は靴を脱がないとなんだか安心できないのよね」


そう言って上品に微笑む姿はお金持ちのマダムといった様子だ。
どうして真っ黒な格好をしているのかだけ、謎が残る。

普通の格好なら、きっと妙な噂は立っていなかっただろう。
そして案内されたのは螺旋階段を上がった二階にある一室だった。


「ここが司の部屋よ」


そう言ってすぐに重厚そうなドアを開けようとするので、咄嗟に「ちょっと待ってください」と、止めていた。
胸に手を当てて深呼吸をする。

ついに声の相手と対面するのだ。
相手がどんな人でも失礼な態度をとることだけはやめよう。

心にそう誓って「どうぞ」と、頷く。
女性はクスクスと笑い声を立てるとドアをノックした。


「司、お客さんよ」