丘の下から見上げる建物は大きく重厚感があり、そこにどっしりと腰をおろしていた。
建物の周辺は灰色の塀で覆われていて、近づく度に物々しさが増していく。

今は昼間だからいいけれど、これを夜に見るとホワー映画に出てくる洋館そのものの姿をしているのだ。
私は丘を上って大きな塀の前に立った。

まさか自分がこの家の玄関をノックする日が来るなんて。
ここへたどり着くまでに何度も考えたことを、また考えてしまう。

門の右手にはインターフォンが設置されていて、それだけはどの家庭でもよく見られるものだった。
黒くて四角いそれを押して、返事を待つ。

するとすぐに『はい』とスピーカーから女性の声が聞こえてきた。
これが魔女の声なのかもしれない。

緊張で背筋が伸びる。
黒を身にまとった女性を思い出して言葉が喉の奥にひっかかりそうになりながらも、どうにか「こんにちは」と、絞り出すことができた。

名前を名乗ると、すぐに玄関が開いてひとりの女性が出てきた。
黒い帽子に黒い服に黒いサングラスの出で立ちに数歩後ずさりをする。

あの格好をしているのは外に出る時だけだと思っていたけのに、どうやら違うみたいだ。


「あらあらあら」


格好に似合わず距離感を感じさせない声で近づいてくるので、そのギャップで更に狼狽してしまう。
けれどここまで来て玄関チャイムを鳴らしたのは私だ。

出てきてくれたのに引き返すわけにはいかない。