その反面、あのお屋敷に行くのだと思うと気分が重たくなっていく。
魔女とか、幽霊屋敷と呼ばれる場所に自分から好き好んで行くことになるなんて思っていなかった。

あの場所は子供のころから恐怖の対象であり、よりつくのは好奇心旺盛な剛のような子どもたちだけだった。


(さすがに無理だよね? ごめん、急にこんなこと言って)


慌てた様子の声が聞こえてきて私は背筋を伸ばして座り直した。
いずれにしたって、噂は噂だ。

小学生の頃は本気で怖いと思っていたけれど、もう高校生になったのだし、魔女や幽霊だって信じていない。
ただ、そう言われてしまう所以が、司の叔母さんの外出姿だというだけのことだ。

黒い服に黒い帽子にサングラス。
その姿は私も何度か見かけたことがあり、たしかに奇妙なものだった。


(無理じゃないよ!)


私は咄嗟にそう返事をしていた。
司の叔母さんがどんな人だろうと、司には関係がない。
せっかく学校を早退してまでここにきたのだから、このチャンスを無駄にはできなかった。


(今から行くね)


私は司にそう伝えて、ベンチを立ったのだった。