声だけでよかった。


(どうかした?)

(ううん。あんな豪邸に暮らしてるなんてすごいなぁと思って)


慌てて言い訳を考える。
司はそれで納得してくれたみたいだ。


(でも、お屋敷には女性が1人で暮らしてるって聞いたことがあるんだけど)

(それがきっと、僕の叔母さんだよ。僕は病気がちで、あまり外には出ないからみんな僕の存在を知らないんじゃないかな)


それはまるで透明人間だ。
だけど司はそれを悲観しているような声色にはならなかった。


(そうだったんだ。叔母さんとふたり暮らしなの?)

(時々家政婦さんとか庭師さんが来るくらいかな)


そんな人達を雇うことができるなんて、お金持ちなんだ。
自分とは違う次元に暮らしている司に溜息が漏れる。


(美保、話を戻してもいいかな?)

(うん。なんだっけ?)

(学校は終わったんだよね? それなら、今から会いに来ない?)


私はこの言葉を待っていたんだ。
司からの誘いを。

会いに来ないかと言われた瞬間、私の心は確実に喜んでいた。
ようやく司と会うことができる。

会話だけの関係じゃなくなるんだ。
そう思うとワクワクした。