(たぶん、美保もよく知ってる場所だよ)


司の声に耳を傾ける。
もう、暑さはあまり感じなくなっていた。
早く次の言葉を聞きたい。


(丘の上の屋敷)


え……。
私はベンチに座った状態で大きく目を見開いていた。
丘の上の屋敷。

この街ではその家を知らない人はきっといない。
私だって、もちろん知っている。

以前剛と孝明のふたりが魔女と言っていた人物が暮らしている、大きな屋敷だ。
そこは人が暮らしているにも関わらず、おばけ屋敷と呼ばれることもあった。

それくらい昔から建っていて、そしてこの街に似つかわしくないほどの豪邸だった。
中世ヨーロッパを彷彿とさせるその佇まいは、夜に溶け込んでしまえば恐怖の象徴のように見えた。

人づてに聞いた話だと屋敷を建てた人物は有名建築家で、自分の仕事の宣伝もかねて自宅をあんな風に作ったらしい。
その人が亡くなって長く空き家になっていたところに移り住んできたのが、今の魔女とよばれる女性だ。

私は戸惑いを隠すことができず、視線を泳がせる。
司が近くにいたとすれば、私の動揺はすぐに悟られていたはずだ。