その名前を心の中で反芻する。
絶対に忘れるものかというように。


(あなたのことをなんて呼べばいい?)

(呼び捨てでていいよ。司って)


クラスでもほとんど全員が呼び捨てになっているから、それには抵抗がなかった。


(じゃあ、私も美保でいいよ)

(うん。なんだか、こういうのって少し照れるね)


そうかな?
新しいクラスになれば定番の自己紹介だと思うけれど、司はその定番をほとんど経験してこなかったのかもしれない。


(そうだね。司に1つ質問があるんだけど)

(なに?)

(こうして会話できるのって、誰とでもできるの?)


今、一番聞きたかったことだ。
私にとってはとても重要なことなので、ゴクリと唾を飲み込んで緊張しながら返事を待つ。


(いや、美保だけだよ)


答えはあまりにもアッサリと返ってきた。
司の声に戸惑いは感じられず、嘘をついているようには聞こえない。

それに、こんなところで嘘をつく理由もないはずだ。


(きっと、美保には僕の声が聞こえる条件がすべて揃ってたんだろうな。だから、こうして電波みたいに感知することができるんだと思う)