「早退? どうしたの?」


見るからに元気そうな私を前にして、舞子が驚いたように目を丸くした。


「ちょっと、急用を思い出して」

「急用って? ちょっと美保!?」

「ごめんね。ばいばい!」


驚いている舞子に大きく手を振り、カバンを掴んで教室を後にする。
廊下を走っているとトイレから出てきた男子生徒とぶつかりそうになって足に急ブレーキをかけた。


「ごめんなさい!」


咄嗟に謝ったあと顔をあげると、相手が剛だとわかった。
至近距離にある剛の顔のドクンッと心臓が跳ねる。


「あ……」


思わず口を開けて止まってしまう。
けれど、体温が急上昇していくような感覚はなかった。
今はただ、声の彼のことが気になって仕方ない。


「大丈夫か?」


剛が優しく微笑んで聞いてくる。


「うん、大丈夫。ごめんねぶつかって」


一歩後退して謝ると、剛は私がカバンを持っていることに気がついて眉を寄せた。


「帰るのか?」

「うん。ちょっと、急用ができちゃって」