☆☆☆

(僕は君が羨ましい)


家に返ってもその言葉が頭から離れず、ニンジンを切りながら何度も指を切ってしまいそうになった。


「今日はいつも以上にボーっとして、どうしたの?」


隣で肉じゃが作りの準備を進めていた母親がさすがに心配そうな顔を見せる。


「別に、なんでもないよ」

(僕は誰にも必要とされたことがないから)


なんでそんな悲しいことを言ったんだろう。
心の中でずっと引っかかっている。
質問することができれば簡単だったのに。


「私って必要?」


どうにかニンジンをすべて切り終えたタイミングで、そう聞いてみた。
鍋に材料を投入しながら母親が目をむく。


「何言ってんのあんた。誰かになにか言われた?」

「そうじゃないよ」


慌てて左右に首を振ってみせる。
今の言い方は自分に価値がないとか、必要とされてないよね? と聞いているみたいだった。

決してそんなことはないし、家族に不満を持っているわけでもないと説明する。
母親は安堵したように息をついた。


「ただ、友達がそんな風に言うんだよね」