「どうしたのその顔」


翌日、教室へ入るやいなや舞子が目を見開いてそう聞いてきた。
私は自分の目元に手をやって「見ないで」と強く言う。

ここ最近なかなか根付くことができなくて、結局昨日も夜中の1時までもんもんと悩み続けてしまった結果、目の下に真っ黒なクマが出現してしまったのだ。

今朝鏡の前に立ってそのクマを発見したときには思わず絶叫してしまった。
どうにかコンシーラーで隠そうとしたのだけれど、起きたときにあまり時間はなく、母親に追い立てられるようにして家を出てきてしまった。

メークは中途半端にクマを隠しただけで、全然意味をなしていない。


「寝てないの? なにか悩みでもある?」


舞子はお団子頭を左右に揺らして心配そうにしている。


「本当に大丈夫だから」

「あ、もしかしてまた声がきこえてきたとか!?」


舞子はどうにか掘り下げて行こうとしている。
確かに声は聞こえてくるのだけれど、今回の寝不足の原因はそれじゃない。

でも、剛に告白されたなんて、恥ずかしくて伝えられない。


「だから、大丈夫だってば」


そう言って自分の席へついたとき、教室のドアが開いて前方から剛と孝明のふたりが入ってきた。
一瞬剛と視線がぶつかり、心臓がドクンッと跳ねる。

咄嗟に顔を伏せて視線をそらしてしまい、不自然になってしまったと後悔する。