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「風と一緒に声が聞こえてきたんだよねぇ」


昼休憩中、私は眠気を堪えながら舞子へそう説明した。


「例の、イケメンの声?」


舞子も食後の眠気のせいで目をしょぼつかせている。


「声だけだからカッコイイかどうかわからないってば」


いくら説明しても舞子は声の主がカッコイイのだと思いこんでやめない。
私は呆れ顔になってしまう。


「でもさ、それが幻聴だったら美保は病気ってことになるから。やっぱりカッコイイ男の子がテレパシーでも送ってるって思ったほうがよくない?」

「それはそうだけど……」


自分が病気だと診断されるよりも、ファンタジックな展開のほうが面白いのは当然だ。
だけどこれは現実に起きていることで、ここは異世界でもなんでもない、ごく普通の世界だ。

テレパシーも魔法も存在していない。


「私、そんなに疲れてるとか、病んでるのかなぁ?」


高校受験に成功して、こうして憧れの学校に通うことができているのに、なぜそんなに病まなければならないのか、自分自身でもよくわからない。


「それか、幻聴が聞こえるほどに彼氏がほしいとか!?」


ハッと気がついたように目を見開いて舞子が言う。


「彼氏がほしすぎて自分で想像の彼氏を作ったって言うの!? 私そこまで飢えてないから!」