「あの花は剛が持ってきてくれたの」


私の言葉に司が花瓶を確認して「本当に?」と、声のトーンを上げる。


「本当だよ。それに、私のクラスメートたちがひっきりなしにお見舞いに来てたの。そしたら叔母さんが腕によりをかけてスイーツを作って持ってきてくれるようになってさ、この病室は毎日にぎやかだったんだよ」


司はきっとその夢を見ていたんだ。
だから一週間穏やかに眠ることができていたんだ。


「そっか。そうだったんだ」


なにかに納得したように何度も頷いてみせる。


「実は夢の中でとても楽しくて、一時期はもうこのままここにいたいと思ったんだ。夢の中にいれば悲しい現実を見なくてすむから」


私の胸はチクリと痛む。
担当医が言っていたとおり司は自ら目覚めることを拒んでいたんだ。


「でも途中からなんだかちょっと焦りはじめたんだ。この楽しさは本当に夢の中だけの出来事なんだろうか? もしかしたら、現実でもこんなに楽しいことがあるんじゃないかって。そしたら急に、悔しくなった」

「悔しく?」