私は咄嗟に立ち上がり、司の前に立つ。


「なにしに来たの」


語調が自然と強くなり、剛をにらみつける。
司は今なんの抵抗もできない状態にある。

そんなところに踏み込んでくるなんて、どれだけ卑怯なんだろう。
けれど剛は右手に持っていた花束を無造作に差し出してきたのだ。


「なにもしねぇよ。見舞いに来たんだ」

「え?」


予想外の出来事に唖然とし、差し出された花束を反射的に受け取ってしまう。
剛はベッドの中の司を覗き込んで「なんだ、結構元気そうじゃん」と話しかける。

私はどう反応していいかわからず、ただジッと剛を見つめた。
少し、いや、随分と痩せたみたいだ。

目の下にもクマができていて、とても健康的とは言えない。


「今回は俺が悪かった。でも、お前とは友達にななれそうにねぇな」


仏頂面でフンッと鼻を鳴らすと、剛はそれ以上なにも言わず、私に挨拶もせずに病室を出ていってしまった。
私はその場に立ち尽くして剛の出ていったドアを見つめる。

ふとベッドへ振り向いてみると、司の口角が少しだけ上がっているように見えた。
剛の声はちゃんと届いていたみたいだ。


「もう少し素直になればいいのにねぇ?」


私は司へ向けてそう言い、剛が持ってきた花を大切に花瓶に飾ったのだった。