夫婦は司に、実の母親のことを叔母さんだと言って聞かせて育てていた。
叔母さんは安心して司の成長をすぐ近くで見守ることができていたのだ。

そんな、ある日のことだった。
幼い司を寝かしつけた夫婦が、叔母さんの部屋をノックしたのだ。

叔母さんの家政婦としての仕事はすでに終わっていたから、それは珍しいことだった。


『少し、話をしてもいいかな?』


入ってきた夫婦は真剣な表情で、自分たちの屋敷や財産のすべてを司に継承することを相談してきたらしい。
叔母さんは最初驚いたけれど、子供のいない夫婦にとっては司が本物のわが子同然だと理解できた。

そしてそれは大きな伏線となっていたのだ。
親戚夫婦はきっと自分たちの未来をなんとなく予見していたのだろう。

遺書を残すにはいささか早い年齢だったのに、司に継承するものをすべて書き残した後に、大きな事故に巻き込まれてふたりとも死んでしまったのだ。

それは司の誕生日の日で、ふたりで司のためにプレゼントを買いに行ったときの出来事だった。
叔母さんはその連絡を、司の遊び相手をしていたときに受けた。

頭の中は真っ白になり、自分の隣で無邪気に笑う司を見て涙を流した。
これから先は司とふたりきりだ。

すぐに手を貸してくれる人はどこにも居ない。