「司を産んだ時も、私は半死半生だった。もしかしたら母体はもたないかもしれないって担当医も言っていたの。それを承知で私は司を産んだのよ」


叔母さんの表情はいつしか真剣なものへ変わっている。
さっきまでの、少女のような笑みは消えていた。


「司を出産した後、私は何ヶ月間も意識がなくて寝たきりになったの。その間に司は親戚夫婦が育ててくれていた。それが、あの屋敷に当時暮らしていた夫婦よ」


私は叔母さんの話しに真剣に耳を傾ける。


「司の父親は私が妊娠したと知ったときから全く連絡が取れなくなっていたから、私はシングルマザーだったの」


こんなに穏やかな雰囲気の叔母さんに、そんな過去があったなんて想像もつかなかった。
のんびりしているように見えるのは、それだけの過去を乗り越えてきた余裕からなんだろう。


「何ヶ月もたってから目を覚ました私は、ようやく司と対面することができたの。司はとても小さくて色白で、私によく似たかわいい子だった」


当時のことを思い出しているのか、目を細めて優しい顔になった。
今まさにその手に赤ん坊の司を抱いているように、自分の膝へ視線を落とす。


「そして、病弱なところまでを受け継いでしまった。親戚は私と司の将来を案じて、このまま自分たちの子供として司を育てることを提案してきた。もちろん私は反対したのよ。司は私の子供だもの、自分の手で育てたかった。けど、親戚夫婦にも悪気があって言っていたわけじゃなかった。本当に、私と司のふたりっきりの生活を案じてくれていたの」


その後退院した叔母さんは、親戚夫婦の家で家政婦として仕事をすることになった。
そうすればいつでも司を顔を合わせることができるから。