ここで火をつければ、今の地獄から解放される。
それは本当だろうか。

剛にとって憎い存在である司と、魔女と噂される叔母さんを焼き殺せば私は救われるんだろうか。
私はライターを握りしめて一歩屋敷へ近づいた。

ガソリンの匂いが一層強く鼻孔を刺激する。
ここにいたら私も爆発に巻き込まれてしまうかもしれない。

振り向いて確認すると、剛と孝明はいつの間にか距離をとっていた。
あぁそうか。

剛はここで私もろとも葬り去ってやろうと考えているのかもしれない。
自分の好意を無下にした憎い女に違いないのだから。

私はライターを持った手を前方に突き出す。
そして親指をかけて、力を込めて……。


「逃げてー!!!」


渾身の力を使って叫んでいた。
周囲の木々がざわざわと揺らめく。