剛はなにも言わずに私を引きずって教室を出た。


「痛いよ、離して!」


懸命に逃れようとしてもうまく行かない。
こんなときに限って、廊下にも階段にも誰の姿もなかった。


「どこへ連れて行く気!? 私になんの恨みがあるの!?」


どれだけ叫んでも剛からの返事はない。
強い力に抗うこともできず、気がつけば体育館裏までやってきていた。
そこには孝明の姿があり、その足元には赤いタンクが置かれていた。


「なに、これ……」


私はタンクと孝明を交互に見つめる。
その答えをくれたのは剛だった。


「今からあの屋敷を燃やしに行く」


それは剛が以前冗談で言っていたことだった。


『いつか絶対魔女狩りに行ってやる。あの屋敷ごと燃やしてやるんだ』


その言葉がリアルに蘇ってきて目を見開いた。
言葉を失い、呼吸が止まる。


「ついに魔女狩りだな。楽しみだなぁおい」


孝明は本気で楽しみにしているのか、さっきから顔がにやけっぱなしだ。
私はどうにか左右に首を振っていた。


「そんなこと……できるわけない!!」


あの屋敷を燃やすなんて、魔女狩りだなんてそんなこと!