「お願いだからそんなこと言わないで」


好きな人が自分のせいで苦しんでいる。
そんな姿は誰だって見たくない。

私だって、私のせいで司が今苦しんでいる様子を見たくなかった。


「僕たち、どうすればいいんだろう」


思い悩むように呟く司にハッと息を飲む。
司の唇は今にも別れの言葉を紡ぎそうだ。

それだけは嫌だ。
私にとってここは心の拠り所になっているのに、ここまで失ったらどうすればいいかわからなくなる。


「どうもしなくていいよ。私達はこのままでいい。そうでしょう? だって、司のおかげで私の成績は上がったし、私の料理をおかげで司は少しずつ元気になってる。離れる理由なんて少しもないじゃない?」


必死になってすがりつくような視線を向けると、司が痛々しく表情を歪めた。


「本当に、今のままでいいと思う?」

「もちろんだよ。叔母さんだって喜んでる」


何度も頷いて自分たちの関係を肯定する。
でないと司はすぐにでもこの関係に終止符を打つつもりだと、わかってしまった。


「それにさ、風の声部は私達ふたりしかいないんだよ? ふたりがバラバラになったら、廃部になっちゃうんだよ?」