本当のことを言ってしまいたかったけれど、きっと司は自分のせいだと思って悩んでしまう。
だからまだ言えなかった。


「勉強?」

「うん。まぁ、そんなところかな」


肩をすくめて頷くと、司は「そんなことだと思った」と、予め準備していたらしい参考書を取り出した。


「ここへ来たら、また勉強を教えてあげようと思ってたんだ。きっと、美保の役に立つから」

「そっか……ありがとう」


本当は勉強どころではなかったのだけれど、司の心遣いが嬉しくて私も教科書とエンピツを取り出した。
最近は全然授業内容が頭に入ってきていなかったので、丁度いいと思うことにした。


「ここはこうで、ここはこう」


司の教え方は相変わらず丁寧で、わかりやすかった。
荒んだ心を持つ私にもすんなりと入ってくる。


「そっか。こっちの公式を使うんだね」


それから私は遅れをとった分を取り戻すように勉強をした。
一対一で勉強する時間はとても心地よくて、つい時間を忘れてしまう。


「美保、もう7時だよ」


司に言われてテキストから顔を上げると、窓の外はオレンジ色になりはじめている。


「もうそんな時間?」