その場に立ち止ってスカートを両手で押さえ、風をやりすごす。


(今日も風が強いな。もしかして、台風でも近づいてきてるのかな)

「え?」


バッと勢いよく振り返る。
今の時間帯はスーツ姿の男女や、犬の散歩をしている人の姿もある。

私はジッと彼らのことを見つめた。
今の声、昨日も聞いた声だった。

それは若い男の声で、どこか涼やかな雰囲気のするものだった。
立ち止ってジロジロと人を観察し始めた私を誰も気に留めることなく通り過ぎていく。

今話に話し掛けた人、います?
そう聞きたいのをグッと喉の奥に押し込んだ。

さっきまで自分の近くにいた人たちはみんな通り過ぎて行ってしまった。
私に話し掛けたいのであれば、立ち止まるはずだ。


「もしかして幻聴?」


眉間にシワを寄せて首をかしげたとき、自分が遅刻しそうなことを思い出した。


「やばい!」


咄嗟に口に出して再び駆け出したのだった。